『週刊文春』の「私の読書日記」は,鹿島茂も向井万起男も米原万里もみんなおもしろいが,立花隆の書く週を心待ちにしている。情報量が圧倒的に多いからだ。それをまとめた2冊目の本『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そして ぼくの大量読書術・驚異の速読術』(文藝春秋)はオビに「この本一冊で三百冊分の威力!」とうたっている。知的貪食ぶりが少しも衰えないのがなんともすごい。これを読んで買った本も多い。案内人としてはまことに頼りになる。神田・東京堂のベストセラーの棚に並んだまま何週間も経つのも故なしとしない。
巻頭に66ページに及ぶ序がついていて,そこがタイトルの後半にあたる。17ページにこうある。「年をとってからは,…日常の生活が忙しくて,そういう【ミステリーなどエンタテインメント系,長編小説など】タイムコンシューミングな(時間ばかりくってしょうがない)本につきあっているヒマがない …」。そうだろうなあと思った。科学の最前線を追うだけでも時間がいくらあっても足りないくらいのものだ。他にも,相変わらず無駄のない文章で,矢継ぎ早に立花自身の本の読み方を述べている。
ひるがえって,自分のことをかえりみる。日常の生活は,立花に比べるのもおろかなことだが,忙しいことは忙しいのである。仕事のほかにも,映画を見たり,歌を歌ったり,何より酒を呑む時間があり,気はせくばかりなのだ。いつ,どんな本を読むか。通勤の電車がもっとも多い。A5版600ページなども持ち込んで開くので,イヤな顔をされることもあった。で,読みますものは,立花の言うタイムコンシューミングなものがうんと多いのです。ブライアン・フリーマントル,ジャック・ヒギンズ,アーヴィング・ウォレス,ケン・フォレット,などなど。最近,阿川佐和子の書くものがほどがよくて好きになった。もちろん,言語学・国語学の本もその間にはさまります。山口明穂『日本語を考える』(東大出版会)など,日本語の機微が腑分けされていく様子がワクワクするほど面白かった。
立花隆は,つまり,世界を,人間を,より深く理解するために本当に役立つ本をさがして,必要な情報をすばやく取り込むことに読書の主眼があるらしい。ふたたび,比較するのも僭越ながら,私が読む本は,時間つぶし(time-consuming!)のためにあるようなのだ。先が長くないからと,立花も言う。私も先は長くない。しかし,開き直って,長くもないこれからの人生を,もっぱら楽しみのために本を読むことになるだろうと思う。
これまで,主として広い意味での教科書を作ってきたが,楽しんで読んでもらえるものを作ったかと問われると返事に窮する。役にたつ本であってくれ,という気持はあった。これからは,ベンキョーの本であっても,やはり「おもしろくてためになる」本をめざしていきたい。そしてなによりもたくさんのひとが買ってくださる本を。