今、小社で企画を進めている「生活語彙の開く世界」シリーズがこの冬、第一回配本『地名語彙の開く世界』の刊行により、 いよいよ幕開けとなる。そこでこのシリーズ全巻の巻頭に掲げられる「編者のことば」からその世界の一端を御紹介しよう。
 「このシリーズは、語彙分野ごとに、語彙システム・意味システムを核として、それを民衆と民衆が生きてきた、あるいは現に 生きている生活世界へと架橋することにより、生活者としての民衆の世界認識、すなわち世界観(=民衆によって内面化されている地域文化) の内実を客観的な手法で体系的に明らかにしようとするものである。語彙は、どのような語彙分野を対象化しようとも、 内部に向かって完全に閉じられたことばの世界を形成するものではない。それはつねに、外部世界へ向けて開かれている。 なぜなら、語彙は、民衆と環境周囲世界との絶えざる相互作用によって成立するものだからである。(中略)日本における 地域言語の多様性は地域文化の多様性と緊密な相関関係にあり、それは日本人の豊かな精神的・知的財産でもある。 伝統的な方言生活語彙が失われることは、歴史の厚みを背景とする伝統的な地域文化の核が失われることを意味する。」
 その地に残る言葉は、人々が生き、暮らしてきた確かな証であり、その地域で生活している人々の世界観を映し出す。 それは、我々の大切な財産であり、それを守り伝えていく一助となれるよう願うばかりである。
 最後にもう一度「編者のことば」から引用してこの場を締めくくろう。
 「生活語彙の研究に新しい可能性を開き、21世紀に贈る確かな言語文化財としての役割が果たせるならば幸いである。」

和泉書院  廣橋研三






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