アメリカ合衆国は、日本にとってもっとも身近な国の1つであるといって間違いないだろう。経済的な関係からも、文化的な影響関係からも、人的な交流の点から見ても、日米間ほど活発な関係を持っている地域は類がないと言ってよい。われわれの実感しても洋画と言えば、アメリカ映画のことが多いし、洋楽と言う場合も、アメリカ音楽が多いと言える。しかしながら、われわれの抱くアメリカに対するイメージの多くは、テレビ報道などのマスメディアや映画などから生み出されているものが多く、偏りが激しいし、ステレオタイプであると言ってもよいだろう。実際のアメリカ人の生活についてのイメージは、あまり豊かなものではないのではないだろうか。また、アメリカ合衆国の積は広く、文化も風土も多岐にわたり、単純なイメージでくくることができるほど簡単ではないだろう。
われわれは、アメリカに対して十分に知っていると言えないのではないか。たとえば、20世紀末、日本ではNPOということばが注目され、日本の市民活動のリーダーたちは、NPOの先進地域として、アメリカの特に西海岸の地域に視察にでかけていった。そこで知ることができたのは、市民活動のバリエーションや豊かさ、経営力を持った市民団体であった。そこには学ぶべきものがたくさんあった。アメリカ社会のユニークな市民の活動。税金と市民の関係、図書館と市民の関係、などなどが、20世紀末になって発見された。これらは、まえからあったはずなのに。どうして20世紀末になってやっと発見されることになったのだろうか。情報社会の中でわれわれは情報にさらされながらも、必ずしも重要な情報が見えてこないというのが状況なのではないだろうか。視点がなければ、あってもみるができない。
もし、発見されるべきものがあるのなら、アメリカにはまだまだ発見すべきことは多いのではないか。本シリーズは、身近に感じられながら、実は意外と知られていない国、アメリカの社会の事情を英語で知ることを目指すものである。インターネットの時代になり、情報は行き交い、適切なキーワードを知っていれば、かなりの情報を手にいれることのできる時代になったが、むしろ重要なのは視点である。アメリカ観で欠けている部分を、本シリーズが少しでも補うことができれば幸いである。たくさんの視点を提供していきたい。
なお、本シリーズは監修者を持たないオープンなシリーズである。研究をされている方、教えている方から、このような視点で見たらどうだろうかとの提案をいただけることを願っている。ぜひとも多くの提案者を得て、複数の新しい視点からアメリカを英語で発見するということを目指したい。
ひつじ書房代表取締役編集長 松本功