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5月

2018.5.23(水)

母と料理とオノマトペ



暑かったり寒かったりでなかなか天気が安定しない今日この頃です。
そうこうしているうちに、東京もあっという間に梅雨入りでしょうか。


さて、みなさんは、お袋の味、親父の味、お祖母ちゃんの味など、思い入れのある料理はありますか。
母の料理の中で私がいちばん好きなのは、卵焼き(甘いタイプ)なのですが、シンプルそうに見えて、その味はなかなか再現できないのです。

先日、姉と話している時に、ちょうど、母の料理の味を再現できない問題についての話題が出ました。
姉曰く、小さいころ母の料理のお手伝いをする際、母はいつも「塩、ぱっぱ」とか、「みりん、ちょろっと」という言い方ばかりで、「ぜんぜん正確な分量がわからんのよね」とのことでした。
思い返してみれば、確かに調味料の分量の指示はいつもオノマトペだったな、という記憶があります。

きっと、母の「塩、ぱっぱ」は「塩 少々」とか、「みりん、ちょろっと」は「みりん 小さじ1杯」といったふうに対応関係があるのかもしれませんが... なにせそんな母の口癖は、「まずいものは作らない、でも同じものも作れない」なので、やはりそのあたりは感覚のようです。

果たして私たち姉妹は、その母の料理の感覚を身につけられるのか...母のオノマトペを思い出しながらの試行錯誤はまだまだ続きそうです。



現在、ひつじ書房のウェブマガジンでは、平田佐智子先生による「オノマトペハンター おのはん!」が好評連載中です(http://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/)。
私も毎回楽しみに読ませていただいております。
みなさま、ぜひご覧下さい!






2018.5.9(水)

本を入れる函―冨士紙器さんへ見学に行ってきました



ひつじ書房の刊行物の中で主軸と言えるのが「ひつじ研究叢書(言語編)」のシリーズです(以下「言語編」と呼びます)。

言語編は、現在152巻まで出ていて、101巻からデザインを一新しました。当初から函入りクロス装でしたが、函は上下をホッチキスのような針金で留める形だったのを糊で留める形にし、函の用紙も伝統的な銀鼠のボール紙から、爽やかな印象のミントグリーンの紙に変更しました。



その函の作成を当初より手がけてくださっているのが、東京の江戸川橋にある冨士紙器さんです。今回研修として冨士紙器さんで見学をさせていただいたので、簡単ですがご紹介させていただきます。私も10年以上冨士紙器さんとは仕事をしていますが会社の前までは行ったことがあるものの、実際の作業を見せてもらう機会がこれまでなく、はじめての見学でとても楽しみでした。

冨士紙器さんは町中にある小さな工場です。しかし町工場というイメージで思い浮かぶような雑然とした感じでは無く、一歩足を踏み入れると、まさに塵一つ無いと言えるような綺麗に整頓された空間に、年期の入った渋い機械が置かれているのが目に入ります。

今回は函が出来るまでの一連の工程、(1)紙の断裁→(2)筋入れ→(3)型抜き→(4)組み立て、を見せてもらいました。

(1)紙の断裁
用紙店より指定のサイズに断裁された紙が搬入されてきます。
その紙をより正確に、中に入れる本の寸法に合わせてカットをします。
1枚目の写真は機械に紙をセットしようとしているところで、ローラーで右側に吸い込まれていくと、2枚目の写真のように、ここでは両端と真ん中にカットされた状態で出てきました。両端は端切れです。2枚目の写真のローラーについている銀色の丸いものが刃になります。刃の位置はローラー上をスライドさせることで寸法を自由に変更したり取り外したりすることができます。





実はここで職人技が発揮されているのですが…、この紙はまとめてカットしているのではなく、一枚一枚機械の速度にあわせて人の手でリズミカルに投入されています。かなり早くて驚きます。写真でも手がぶれているのが分かると思います。

なぜ紙をまとめて断裁しないのかと言うと、刃には厚みがあるので、まとめて断裁すると必ず刃の厚み分でサイズがほんの少し変わって来るのです。だから、ものすごく手間はかかりますがこうして一枚ずつカットすることで、正確にすべて同じサイズにすることができるということです(例えば、100枚くらい重ねた紙の上から刃物を落として切ることを想像してみてください。ただし、普通、紙の断裁というとこちらのまとめて切る方なのです)。
このカットをする機械を持っているところは少なくて、様々なところからカットの依頼が来ると言うことでした。

(2)筋入れ
函を組み立てるための筋を入れる機械です。
先ほどカットした紙を持ってきます。はじめに機械の奥にあるストッパーで寸法を調整して(1枚目)、足のペダルを踏むと(2枚目)、がちゃんと先の丸い刃が降りてきて(3枚目)、筋がつきます(4枚目)。









4枚目の写真で筋が綺麗に見えると思いますが、この筋の太さはかなり自在に調節できるそうで、本の厚さなどで微調整しているそうです。二本筋が入っていますが、一度ガチャンとしてから、紙をひっくり返してもう一度ガチャンとしています。これも超スピードです。油断して指を入れてガチャンとしたら最後なので、日頃からぼやぼやしている私には到底出来ない技だと思いました。

(3)型抜き
先ほどの作業で筋は入りましたが、このままだと折って組み立てることができないので、金型で不要な部分を抜いていきます。1枚目と紙の種類が違いますが2枚目の写真が抜いたあとの紙です。一気に箱のイメージが湧くのではないでしょうか。





(4)組み立て
いよいよ仕上げです。今回仕上げの2パターン、ホッチキスのような針金で留めるものと、糊付けとを見せてもらいました。まずは針金留めから。







ミシンのような機械で、ミシンでいうところの針がおちてくるタイミングで針金がホッチキスのように留められていきます。その針金の間隔は何かガイドがあるわけではなく完全に感覚なので、職人さんの技量が光ります。
これ、ミシンで縫うみたいに細かいピッチで留めていったら格好良さそうだなと内心で思っていたら、説明をしてくれていた親父さん(社長さん)が、「たまに細かく留めてくれって指定がくるけど下品になっちゃうんだよ。これくらいが一番なんだよ」とべらんめえな感じで仰ったので、そっとうなずきました。

下は別の函ですが、ひつじ書房の現在の言語編と同じ糊留め、というか、テープ留めをしているところです。



ボンドみたいなもので留めているのかと思っていましたが、両面テープのようなもので留めているのだそうです。糊などは乾燥して固着するまでに時間がかかるので手を離すと剥がれてしまうため、テープが最適だということです。

何気なく話しながら留めていっているのですが、狂い無く綺麗に貼り合わせて組み立てているのがさすがでした。


さて、今回見学させていただいたのは以上です。総じて機械を使いながらも基本的に人間の作業で一つずつ作られているのが分かると思います。職人さんの技術に支えられているのだということを実感しました。

あと余談ですが、函本は下の写真の様に、ボールに印刷した紙を貼り合わせて作る函もあります。



これは貼るのに膠(にかわ)を使用するそうで、別の工場で行っているということでした。膠は温度が低いと固まるので、夏場でも40度以上の部屋で作業をする必要があるそうです。サウナ効果で美肌効果うれしー、などと言ってられないそうです。


そんなこんなで、これまで手がけられた様々な函なども見せていただき、大変勉強になる時間を過ごしました。
冨士紙器さん、まことにありがとうございました。






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