個人的な話し 存疑アクティブラーニング

2017年2月27日(月)

個人的な話し 存疑アクティブラーニング

個人的なことから、話しをはじめます。50歳を過ぎて、数年たった時に、運動不足解消、老化防止のために、身体を動かすことをはじめようと思いました。やりはじめたのは、タップダンスです。この1月には、発表会にもでました。タップダンスは、フレッド・アステアとか、ミュージカル映画「雨に唄えば」とかをご存じの方なら、あれかなと想像が付く方もいらっしゃるでしょう。靴の裏側に金属が打ってありまして、それを鳴らしながら踊るダンスです。音を出すことがとても難しいです。バランスをとって、身体を動かし、リズムにのせて、音を鳴らさなければなりません。

普段は、基本的なステップ(足の置き方)を先生が、見せてくれて、そのステップを踊るということがレッスンになります。生徒は数人いますが、私がもっとも下手です。先生がこうですと見本を見せてくれますが、上手な方は、すぐにそのステップが分かります。ステップが分かってはじめて踊れます。分かってもうまくは踊れませんので、練習をします。次に上手な方は、見てすぐにではなくて、数回見本を見れば踊れます。私などは、見るだけではどういうステップなのかが分かりませんので、先生に順にステップを見せてもらい、まず、右足のかかとを置いて、次に左のつま先というように説明してもらわなければ分かりません。説明してもらっても、実感としては分かっていないでしょう。

見本を見せてもらっても、他の人は完璧でないにしても、それなりにそれらしく踊ることはできていても、私は何も分かりませんので、身体を動かすわけにもいかず、ただ、立っているだけということになります。私は小学校高学年からは、教科については、真ん中くらいの成績ではあったので、授業で内容が分からずに、あるいは問われている問題が分からずに疎外感ということは、なかったのですが、50代にして、授業が全く分からないというのはどういう気持ちなのかを味わっています。

今回の私の文章は、自分がタップができずに疎外感を味わったということをいいたいのではありません。何をいいたいのかというと、かたちをつかむということは難しいということです。

先生が、踊ってみせてくれます。レッスンが終わると動画も撮らせてもらいます。帰宅して再生して見て、ステップを認識しようとします。ところが、かなりの回数、百回くらい再生して見ないとどういう動作をしているのかが、認識できません。ステップが理解できないのは、動作のはじまりとおわりが分からないのとどうまとまるのかが分からないのです。さらにいうと、本当は実際に身体を動かして、再現してみないと分かりません。再現できて、はじめて、まともにまとまりや動きを認識できるのです。動いているモノの過程を見分けるということはたいへんです。まとまりや動きを認識できるには、動態を認識できることが必要です。動体視力が重要ですし、動態を認識できるためには、かたまりに分けられないと難しいです。そのためには、動作のボキャブラリーが必要ですし、動作のいろいろな活用形を知っている必要があります。言語学の視点でいうなら、音を聞いたときに、それをことばとして聞くためには、文法的な能力が必要なのです。そうではないと切れ目のない動作の塊です。

ダンスは、自分でできれば、見て楽しく、踊って楽しく、面白いものです。しかし、ダンスを学ぶには、「文法的」能力が必要なんです。ここから、話しが飛躍して、今回の主題になるのですが、教育法の改革として、アクティブラーニングという授業の方法がもてはやされています。みんなで、主体的に問いを立てたり、疑問を出し合ったり、解決策を探したり、みなで話し合いつつ考えます。それは、何かの問題を解決するために、実生活でも行っていることでもあります。でも、それは完成したダンスなのではないでしょうか。動体視力がなければ、「文法的」能力がなければ、語彙を持っていなければ、何が行われているのかも分からずに立ち尽くすしかないということになるのではないでしょうか。アクティブラーニングというのは、いきなり完成品のダンスを見せて、やらせることと同じなのではないでしょうか。

それに慣れていない人は、分解したパーツから学ばないと、何も理解できないのではないでしょうか。分からないけれど、分からないですということが許されていないので、やった振りをするだけ。もっと、プロセスを分解して、動体視力のないこどもも疎外されないようにする配慮と工夫が必要なのではないでしょうか。ダンスが踊れる人が,分からない人の気持ちが理解できないと同じように、すでに問いを発して議論できる人が、できない人の気持ちが分からずに、推し進めているということがないだとうか、という問題提起です。

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