『「大学生」になるための日本語1』の音声部分の収録

2009年7月21日(火)

『「大学生」になるための日本語1』の音声部分の収録

現在、『「大学生」になるための日本語1』の追い込み的段階に突入しています。この企画は、ひつじ書房が初めて日本語教育の教材を刊行するもので、少し大げさに言いますと社運をかけて進めているものです。企画は2006年の春に開始したのですが、やっとどうにかもう少しで刊行できる段階に達しました。

最初は日本語教育の会話教材としてスタートしましたが、日本語学校で使われるメインの教材にしたいと方向を変えました。海外から留学を目的として日本に来た外国人学習者の日本語学校の最終段階、大学などの高等教育への入学を目指す学生さんへの教材とするための教科書を目指しています。そのため読解に比重を置いて、本科の授業で使えるように、作っています。これまでの日本語教材によくあるあり方、テキスト本文を著者が書いてしまうのではなく、実際に誰かが書いて、世の中にでた文章を掲載しています。日本語教師による作文ではなく、リアルな題材・テキストによる教材です。著者は岡山大学の堤良一先生と大阪産業大学の長谷川哲子先生です。お二人とも若い研究者で優秀な方ですが、著者については別の機会に紹介します。今回は聴解・録音部分に関わる部分について書きます。

タスクと文法を融合したいというのが、本書のテーマの1つです。日本語教育に関わる方であれば、これは難問であることは、お分かりいただけると思います。そのために内容はもちろんですが、本文の書き方、例文の提示の仕方に工夫をしています。情景・タスクを想像し、理解するのを助け、促進するためにイラストも工夫しています。イラストレーターは、ヒライタカコ(ひらいたかこさんとは別人)さんと飯山和哉さんで、お二人ともイラストレーターとして、評価の高い方で、すばらしいイラストを描いてくれています。このイラストも本書の特徴ですが、別の機会に紹介します。なお、一番大事な本文を分かりやすくレイアウトしてくれているのは、ひつじ書房の書籍を多く手がけてくれている大崎善治さんです。

さて、今回の日誌は聴解のための音声の収録ということが、中心です。今回の本は、日本語の教材であるので聴解という要素があって音声を付けることになっていました。ここでも従来の日本語聴解教材で使われていた音声の不自然さをできるだけ、乗り越える内容にしたいと思いました。会話や話していることばをできるだけ自然に無理がないように聞くことができるものを作りたいという願いがありました。最初は、声優さんでと思い探したのですが、イメージに合う方を見つけることができませんでした。今回の内容がドラマ仕立てではなく、ストーリーをメリハリ付けて話すよりも自然な日常的なものを求めるという趣旨と合わなかったのかも知れません。沢山の方がステキな声をいろいろと送って下さったのですが、これで行こうという決断ができませんでした。たまたま、見た青年団のサイトで、青年団が日本語教育の教材にもなるような音声の作品を出しているというようなことが書いてあったので、アゴラ劇場に聞いてみたところ、芸能プロダクションのレトルを紹介してもらいました。(青年団は、劇作家平田オリザさんが主催する演劇集団です。)レトルに俳優さんの声を送っていただいて聞いてみたところ、イメージに近いと感じました。自然な語り口、話しぶりで定評のある青年団の俳優さんたちをマネジメントしているところなので、なるほどと思い、お願いすることにしました。


左上から、エンジニアの稲田さん、俳優の端田さん、足立さん。左下から、遠藤さん、ミギタさん。ひつじの板東と著者の堤先生。

女性はミギタ明日香さん、男性は上役的な人が足立誠さん、若い方が遠藤弘章さんそして、女性同士が話すところで端田新菜さん。ちなみに足立誠さんと端田さんは青年団、ミギタさん、遠藤さんは東京タンバリンの俳優さんです。池尻大橋のスタジオのStudio baytree(主催 相馬裕子さん)で収録、編集を行いました。足立さんは、ステキな渋めの声と全体の運行を仕切って下さり、おかげでスムーズにすすみました。ミギタさんは、かわいくかつ綺麗な声で若い女性だなあと実感できる声でした。遠藤さんは若者ぽい情感のある声で、3人の組み合わせがよく、今回の収録は大成功だったと思います。端田さんは、半日だけでしたが、ピンチヒッターとして打席に立って、ホームランを打つようなプロ的な仕事ぶりで、準備されたわけではないと思いますが、ミギタさんと息のあった言葉のやりとりが見事でした。役者さんというプロの仕事はすごいと目の当たり(正確には聞いたので耳のあたりにした)にしました。おかげでかなり自然に聞こえるものになったと思います。最後の方に収録している、食事をして最後にどっちが払うか、割り勘にするかという場面での会話は、実はスクリプト(台本)ナシでその場で演じてもらったものです。スピーカー越しに聞いていた私たちは、ぞくぞくするような場面に立ち会った気がしました。本書がでましたら、ぜひCDを聞いていただきたいと思います。俳優さんが自然な感じのする日本語を話しています。CDは音声CD1枚に収まりきらずに2枚になりそうです。

エンジニアは浜崎あゆみや東方神起のレコーディングもやっている稲田範紀さん(有限会社 ハイファイブ)。日本のトップレコーディングエンジニア(日刊ヤマチョイによる)の稲田範紀さんがまたスゴ腕職人という感じで、録音していくそばから、編集を行って、しかも、こういう風にしますかとの質問をして下さいます。エラブった雰囲気のない、優れた、優しいわざ師という感じです。私が、これまでの録音収録にたちあったエンジニアとは違って、やって下さっていることが分かりやすいのが私にはよかった。これは、稲田さんが音楽のレコーディングが本当は専門なので、録音して、他のトラックといっしょにして、その場で聞いて、すぐその場で直してというやり方を常日頃やっていらっしゃる方だったからかもしれません。私のこれまでの経験では、その場で直すと言うよりも、一括して録音してから、エンジニアに預けてエンジニア氏が完成と判断したモノをただ受け取るだけという感じで、音源の編集作業がブラックボックスで、よく分からないという感じだったのですが、稲田さんのやり方がその場で直ぐに編集して、できたものをすぐにその場で聞き直してという明解なやり方だったので、とても分かりやすかった。私にはこのやり方はよかったし、この方法の方がいいと思います。baytreeの相馬裕子さんにはいい方を呼んでいただけたと感謝しています。相馬さんは実は歌手らしいですが、今回はスタジオを貸して下さった方でした。


ミギタさんと遠藤さんが出演する東京タンバリンの公演「雨のにおい」のチラシを持っているところ。東京公演は、2009年10月1日(木)〜10月6日(火)、下北沢駅前劇場で、広島公演】は2009年11月6日(金)〜11月8日(日)で、広島アステールプラザ多目的スタジオでとのこと。
「雨のにおい」


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