ひつじ書房という存在は、英文学会では見えない存在 2007年5月21日(月)

2007年5月25日(金)

【学術】科学研究費リテラシーの必要性

朝日新聞によると「慶応大学の池田康夫医学部長を中心とする研究グループが薬の新たな効能を調べる臨床研究で、厚生労働省の公募要項に違反し、同省の科学研究費補助金(科研費)のほかに、財団法人から約4億3000万円の助成金を受け取っていたことが22日、朝日新聞の調べでわかった。」とのこと。

この記事は、二重の受給が問題であるということを自明のものとしている。厚生労働省の公募要項が、二重の受給を禁止していたということはわかるが、そもそも、そのことは正しいのだろうか?という問いかけがない。研究に必要な資金が、一つの助成金で足りなかった場合、他の助成を求めること自体、おかしなことなのだろうかということである。どうしても行わなければならない研究であれば、あちこちから研究費を取ってくるということ自体は問題ではないと思われる。問題はあるのかもしれないけれども、その点についての説明は記事にはない。厚生労働省の取り決めと違反しているということだけだ。

また、「今回の臨床研究は、アスピリンの新たな効能を確かめるためで、もし、結果が効能の拡大に結びつけば、服用者が増え、製薬会社に利益をもたらす可能性がある。」とのことであるが、アスピリンは1897年に作られた薬品で、すでに特許が切れている薬であり、複製する製薬会社もあるわけで、バイエル薬品が独占的に利益を受けることはできないはずだ。ということを考えると今回の二重受給は、悪意や非人道的なものではないのではないか、とも思える。あるいは、バイエル薬品がアスピリンの臨床研究を支援するもっと何か理由があるのかも知れないが、そのことは記事では分からない。不正な二重受給を取り上げるにしろ、記事の書き方が甘いと思う。

科研費の使い方の不正は、断固として問題であるが、制度が不適切である、という可能性もある。研究を行おうとすると脱法的になってしまうような場合がないかどうかだ。私腹を肥やすというようなことは論外だが、あちこちから研究費を取ってくるということ自体は問題にならないだろう。(研究成果がでた場合、どこにその成果に基づく利益がもたらされるかという問題があるのかもしれない。でも、これは大学の研究成果をどうやって社会に貢献させるかというTLOと同じ問題だろう。TLOで解決済みの問題では?「TLO(技術移転機関)とは:大学技術移転協議会」)という可能性を考えると科研費というモノに対してきちんとしたリテラシーを持っていないと問題の本質ではなく、バイアスの掛かった記事だけを疑問無く読んでしまうとスキャンダルとしてしか捉えられないことになってしまう危険性がある。このことは十分に留意する必要がある。


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