2005年1月16日(日) 学術書の価格帯
2005年1月16日(日)

学術書の価格帯

ひつじ書房の場合だが、出版物の価格帯がいくつかある。ざっと4つあると言っていいだろう。まずは、学術書の価格帯。この価格帯にも、二つある。1200部以上とそれ以下である。それ以下は実際には、だいたい600部くらいが基準である。もし、300ページの研究書を作る場合、1200部以上なら、5000円前後になる。600部の場合なら、10000円前後になるだろう。それ以下の部数なら、値段としては高くなる。近年は、大学院生の一部が、購入してくれるべき書籍を図書館でコピーして済ませる人がいたり、研究者の一部が、大学の研究費での購入だけで個人で購入してくれないという傾向があるのか、安価に押さえても購入部数が増えない傾向にあるようである。以前であれば3800円という価格で本を作っていた書籍を、現在は4200円にすることが多い。これはまた、買ってくれる人の傾向でその時々で変化する。

学術書の価格帯以外は、もう少し一般的なラインアップとなる。研究のガイドブックと日本語教師向けの参考書の価格帯というものと教科書の価格帯がある。ガイドブックと参考書向けの場合は、現時点では2800円くらいの値段を付けている。1200部から2000部の発行をする。教科書は1500部から5000部の発行となる。

ひつじ書房の特徴は、この4つの価格帯の本をきちんと刊行していると言うことである。多くの出版社は、学術書の価格帯を持っていない。多くの出版社は、学術書を出していないから当然のことだ。 たとえば、英語教育に関連する本を出している出版社は、教科書とガイドブックの刊行はするが、学術書のラインをそもそも持っていない。そういうところが、たまたま学術書を出しても気まぐれで出しているようなものだから、ルールがない。採算のとれそうもない書籍の出し方なので、継続的に研究書を出すことができないようだ。学術書を出すノウハウがないということだ。

学術書を出していると言っても社によって、方針が違う。日本語学の研究書を出しているひつじと比較的近い位置にいると思われているであろうくろしお出版と比較すると、われわれは、300部や500部の学術書も毎年刊行しているが、くろしおさんはあまり出していないだろう。学術書の1200部クラスのラインが、得意であるというように見受けられる。科研費の出版助成金を申請して出版助成金を使って刊行するということは基本的におやりになっていないようである。このようなことはそれぞれの会社の方針である。

ひつじ書房の立場は、読者が限定されていてもその範囲で、著者と協力して全力をつくしたいと考えている。300部だから刊行できないとか、500部だからだめだとか、あるいは800ページを越えてしまうから出せないとか、10000円を超えてしまうから出せないとは考えない。ただ、300部の本に1000部の本の値段を付けることはできないし、気を使い、注意する点は違っているということについては心しておかなければならないことであると考えている。

学術書の難しいところは、研究が細分化している場合、値段がいくら安くても関係のない研究ジャンルと思われてしまうとなかなか売れないということだ。大学院生のために自分の研究ジャンルではないものでも、研究室に揃えておくということはあるが、それでも、ある程度共有制のあるテーマ出なければ、買ってもらうことは難しいだろう。研究者の側も、多くの研究者の関心をよんでいるものなのか、そうではないものかは認識しておく必要があるだろう。マイノリティな研究をすべきではないという意味ではなく、少ないことの困難さは認識したうえで研究を進めるべきだと言うことをいいたいのである。

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