2003年7月3日の日誌 なぜビジネスセンスが必要か

2003年7月3日(木)

なぜビジネスセンスが必要か

小泉内閣の諮問会議が、新しい骨太の方針を発表した。新聞などではいっさい報道がないが、その中にビジネス支援図書館の推進ということが書かれている。新聞のダイジェストというのは担当新聞記者が行うのだろうか。このような重要なことでも、平均的で優秀な頭脳の人には価値が見つけられないもののようだ。ぜひ、原文を読むことを進めたいといいたいが、あまりにも文が多すぎる。これはやはり記者には優れた情報アンテナになってもらって、価値をみつけることのできる能力を磨いてほしいものである。

来週の11日に、ビジネス支援のシンポジウムがあるので、この機会に図書館がビジネス支援することの一番重要な点について、『現代の図書館』に投稿中の一部を紹介したい。投稿中のものを公開するのは問題があるが、一部であることでお許しいただきたい。この論文自体のもう一つの骨子は、ビジネス支援サービスはあたりまえのサービスであることを数字で証明しており、たぶん、反論できないので、こちらの方が頭の固い図書館関係者には衝撃的であろう。

-----引用 ここから-----

市民にとっての課題は、社会の状況を受け入れるだけではなく、社会の状況と主体的に関わって、変えていくことができる能力を身につけること、そのために活動自体を組織化し、運営していくことができることである。自発的に発想し、主体的に運営していくこと。ここでのキーワードは、「自立」と「運営力」ということになる。「自立」を成り立たせるのが「運営力」であり、「運営力」は、別のことばで言うとマネジメントということになる。マネジメントというと管理という訳語がすぐに思い浮かべてしまうが、『共感のマネジメント』(松本修一 大阪ボランティア協会)に書かれているように、「マネジメントとは「集団を上手に運営していくための知恵」」というような意味と考えてもらいたい。この中には、グループの中でのコミュニケーションや人をどうやって集めるかとか、団体の運営資金をどのように集めるかということも入ってくる。一種の経営ということにも関わるだろう。

市民が自分で問題を発見し、その解決策を見つけだし、解決策を実行できるような運営・経営を行うことができるようにする。傍観者ではなくて、変えていく側に回る、当事者になるということ。その問題は自分が解決しなければ、解決しないという意識である。

様々な問題を抱えている社会を動かしていくことを考えたときに、現実にはもっとも不足していて、必要なものが、マネジメント、経営とビジネスマインドとスキルだからだ。自分の足で立つ能力のことをビジネスセンスと考えたい。

4 マネジメント能力

この点でビジネス支援サービスを図書館が行うと言うことには二つの意味がある。ひとつは、他のサービスと同様に市民に情報を提供するという意味。この点では他のサービスと戦略的な優先順位に違いはあっても、人口での比重に比して、サービスが少なかったことは、バランスを欠いているので、バランスを直す必要はあるだろうが、具体的なサービスとして優先度が高いわけではない。

もうひとつはすべてのサービスの根底に必要なビジネスセンスを、市民にビジネス情報を提供するという、いわばOJT(オン・ジョブ・トレーニング)で学ぶということである。実は、後者の方が重要と私は考えている。当事者として参画し、実際の課題を解決していくセンス。ビジネスを支援することによって、マネジメントのマインドを学ぶと言うことである。

ビジネス支援サービスは、予算を獲得するための手段ではなく、マネジメントという21世紀の重要な課題を図書館自体が学ぶ機会であり、図書館自体が運営に成功し、生まれ変わるためのチャンスなのだ。この点では、非常に優先順位が高いと私は思っている。(もっとも、多くの企業がこれまで、下請け関係という中で経営されており、企業自体がマネジメントの感覚がないという場合も少なくなかった。日本の組織自体がほとんどそうだったのである。)

5 図書館がビジネスセンスを持ってくれたら!

図書館がビジネスセンスを持ってくれたら! ビジネス支援サービスに図書館が取り組むことは、市民にとってもっとも重要な情報機関に経営的なセンスを学んでもらうよいチャンスではないだろうか。その中には予算の獲得も重要な用件として入っている。予算獲得ということは行政の中で市民サービスの構築にとってもっとも重要であるはずである。図書館というビジネス(事業)をマーケティングをし直すことで、ニーズを見つけ直すと同時に社会的なアカウンタビリティを実現する。地域住民が図書館というビジネスに投資しても良い、投資すべきだと思えて初めて、図書館のサービスは向上する。どんどん予算を獲得すべきだろう。そのようなセンスをもった機関になってはじめて、市民力をサポートする機関になることができ、図書館の力によって社会はよい方向に変わっていくことができるのである。市民の力をサポートすると考えたとき、市民の自主性と図書館というのものはとても相性がいいと考えられる。図書館には大きな可能性がある。学校という教育システムは、教えるという要素が強いが、図書館はあくまで問題を持った人間が自分で主体的に解決のためにおもむくところであり、主体的な学習活動、調査研究という点では、学校よりもよほど主体性と相性のよい組織といえよう。教育の中心は、学校から図書館へと移動させるべきではないだろうか。

ビジネスセンスは、子ども向けのサービスを行うときであっても、高齢者向けのサービスを行う時であっても、医療情報を提供する時であっても、図書館の全てのサービスのいっそうの高度化に役に立つものになるだろう。予算がないから、あきらめるのではなく、予算自体を作り出していく。図書館自体が問題の発見と課題の解決の能力を持つと言うことである。そのようなセンスがあれば、市民社会の動向の中でどれが単なるはやりなのか、それとも、社会にとって必要な波であったり、社会を変えていく胎動なのかがわかるようになるだろう。そのセンスこそが、社会を変えていく基礎体力である。

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