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2018.2.23更新

第49回メディアとことば研究会



日時:2017年9月15日(金)15:00-18:00(受付開始14:30)

場所:大阪大学大学院言語文化研究科 A棟2F大会議室(豊中キャンパス)

パネル発表:核をめぐる記録と記憶―メディアにおけるHIROSHIMAとFUKUSHIMAのストーリー
発表者:佐藤彰、秦かおり、岡本能里子





発表者:佐藤彰(大阪大学)
題目:原発事故を報道する米紙の和訳記事は「大本営発表」だったか―ウォール・ストリート・ジャーナル日本版における原発事故関連報道の批判的談話分析
概要:2017年現在、政治と報道に関する議論において、アメリカではfake news、alternative facts、post-truth、日本では印象操作といったことばが頻繁に用いられている。ここで問題となっているのは、メディアが果たして「真実」を伝えているのか、という点である。本発表では、福島原発事故に関する日本のメディア報道が「大本営発表」だったか(政府や電力会社の発表をそのまま提示していたか)というジャーナリストらの論争を受け、米紙の翻訳記事においても「発表報道」の傾向が見られたかを批判的談話分析を用いて検証する。具体的には、ウォール・ストリート・ジャーナルの英文記事と日本版におけるその翻訳記事を対照することで、両者が(1)福島で何が起きていたかをどう描き、(2)否定的な情報(危険と悲観論)にどう対処しているのか、また(3)否定的な情報への対処の仕方に関しその和訳記事は、原文である英文記事と、広島原爆投下時の日本の新聞における記事のどちらにより近いか、を検討する。


発表者:秦かおり(大阪大学)
題目:結び直される記憶―メディアにおけるナラティブ性とHIROSHIMAの集合的記憶
概要:本発表は、ある一つの出来事をきっかけに過去の集合的記憶が呼び起こされ、現代の価値観からそのナラティブがメディア上で再構築されていく様子を分析することを目的とする。2016年に当時現職であったバラク・オバマ米大統領が広島を訪問、原爆に触れたスピーチを行ったことをきっかけに多くのテレビ番組が放映された。本発表ではその中でも被爆者の証言を交えた「記憶」に焦点を当てた番組を分析し、メディアがどのように番組を構成するかを検証する。具体的には、メディアに描かれたナラティブは、1人の人物の語りによってなされて解釈を視聴者側に任せているのではなく、語り手以外のナレーションや周囲の人物との相互行為も含めて分析すると、評価を含む伝統的な構造主義的ナラティブの型を成しており、解釈可能性の余地を残さない場合が多いことを示す。本発表では、このようにオバマ大統領の訪問に端を発した集合的記憶の再構築と、それに伴うメディア・ナラティブの構造的特徴を論じる。


発表者:岡本能里子(東京国際大学)
題目:オバマ広島訪問におけるメディア報道のマルチモード分析―プラハ演説『核兵器なき世界』との比較を通した「記憶」の再文脈化
概要:オバマ前米国大統領が、在位最後の年となる2016年の5月27日、歴代米国大統領としてはじめて広島を訪問した。この訪問は、核兵器廃絶、テロ抑止や経済の低迷などをはじめとする出口の見えない世界状勢について話し合われた「伊勢志摩サミット」直後であり、日本のみならず世界各国のメディアに、大きく取り上げられた。本発表では、当該スピーチとノーベル平和賞受賞のきっかけとなったプラハスピーチ『核兵器なき世界』を巡る日本および海外報道を取り上げ、語彙選択や表記の使い分け(例:被爆者/hibakusya)、主語やモダリティー選択、写真やレイアウトに着目しマルチモードのデザイン概念を援用して分析を行なう。このようなマルチモードの相互作用を通して意味が創出され、「加害者と被害者」「勝者と敗者」の関係性が組み直され、戦争の「記憶」が再文脈化され、『核』をめぐる新たな物語りが再デザインされていく過程を明らかにしたい。