外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか|第9回 先が見通せない外国人施策と声を出さない日本語教育関係者|田尻英三

★この記事は、2019年4月24日までの情報を基に書いています。

前回のウェブマガジンを出してから、時間が経ってしまいました。その間に、多くの外国人労働者に対する施策が出ました。実は、田尻はそのいくつかに直接関わっています。しかし、それらの会議の情報を関係する省庁がホームページで公開していない以上、田尻がこの件に言及することはできません。もちろん、田尻が関わっていない会議でも、外国人に対する施策の検討が進んでいます。田尻が、それらの全部を把握している訳ではありません。ただ、田尻は許される範囲でこのウェブマガジンに状況の説明と私見を述べ続けていますが、他の日本語教育関係者がこのような事態をどう捉えているかが聞こえてきません。日本語教育学会の支部集会や他の学会でも、同様の企画がありますが、それらの企画で発言する方は、インターネット上などで自分の意見を紹介してほしいと強く思っています。念のために言えば、3月23日の日本語教育学会関西支部集会でのパネルディスカッションの田尻の資料は公開していませんが、それはその時点で最終的な施策が出揃っていなかったためで、中途半端な情報で誤解を招かないようにするためです。

このように状況が大きく変わっている場合の判断で大事なことは、正確な情報を選択することです。関係省庁が出す資料を使わずに情報を流すのは問題です。田尻は新聞などで扱われたテーマでも、関係省庁のホームページにそれに関する情報が出ない限り使わないようにしています。また、ある情報について最初に意見を述べたのは誰であるかを確かめるのも大事です。田尻の見る限り、日本語教育の世界では先行研究への言及はそれほど重要視されているようには思われません。

日本語教育関係者の最も大きな団体は、日本語教育学会です。この学会のホームページで日本語教育施策の情報を扱うのは、社会啓発委員会です。日本語教育学会の2019年度事業計画の社会啓発事業は「社会的課題の解決にかかわる情報を収集・分析し、専門的な観点からの政策提言や意見書の作成・発信を行う」となっています。しかし、最近の社会啓発委員会からの情報はパブリックコメントの情報ばかりで、以下に扱うような大事な情報は会員には流されていません。田尻は、このような状況は大変問題だと考えています。今後は学会のメールマガジンなどではなく、学会のホームページの「お知らせ」に大事な情報は出してほしいと思っています。

以下、テーマごとに主要な施策の説明と私見を述べます。

まず、二つの大事な会議について触れます。

2019年3月22日に、外国人材の受入れ(ママ)・共生に関する関係閣僚会議幹事会が開かれました。この資料は22日現在の特定技能制度の施行準備状況、特定技能制度の施行準備状況、総合的対応策の進捗状況などがまとめられており大事な資料ですが、日本語教育学会のホームページの「お知らせ」には出てきません。内容は、以下の「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の項で扱います。

2019年4月22日の規制改革新進会議(以下、「規制改革」と略称)で、「日本で働く外国人材への『就労のための日本語教育』の枠組み整備に関する意見」が出ました。この資料は、就労のための日本語教育について国レベルの会議で初めて触れられたものですが、日本語教育学会のホームページの「お知らせ」には出てきません。内容については、以下の「外国人の日本での就労」で述べます。

〇外国人児童生徒への日本語教育

2019年4月10日に文部科学省のホームページに、同年3月15日に各都道府県知事・教育委員会委員長・指定都市市長・教育委員会教育長宛に出された「外国人の子供(ママ)の就学の促進及び就学状況の把握等について(通知)」が公表されました。これは、域内の市町村・市町村教育委員会にも通知されていて、今後の外国人児童生徒への教育促進が期待されます。2019年1月6日の毎日新聞の調査では、就学不明の子どもが1.6万人いることがわかったとあります。なお、いくつかの新聞で2020年度に義務教育年齢の外国人児童生徒の全国実態調査をするという記事が出ていますが、文部科学省のホームページには出てきません。

〇外国人への生活支援

2019年4月10日、法務省出入国在留管理庁のサイトに「外国人生活支援ポータルサイト」ができました。この中に「生活・就労ガイドブック~日本で生活する外国人の方へ~」がありますが、全104ページの中に「日本語学習」はわずか2ページしか出ていません。この扱いにより、出入国在留管理庁の日本語教育に対する姿勢が見えるような気がします。

〇外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議

2019年3月29日、この会議が開かれました。この会議の資料は大変大事なものですが、これは日本語教育学会ホームページの「お知らせ」に出てきません。日本語の試験としては、14分野共通の「国際交流基金日本語基礎テスト」と介護の「介護日本語評価試験」の国外予定実施時期が列挙されています。他の技能評価試験も、その試験の名称・実施団体名・国内外の実施時期の一覧表が出ています。MOCの署名済みはフィリピン・カンボジア・ネパール・ミャンマーで、実質合意はベトナム・モンゴルで、残り3か国も調整中となっています。「地方定着促進のための各種支援措置」も挙げられていますが、田尻にはどれもそれほど有効だとは思えません。「外国人受入(ママ)環境整備交付金」の経費の対象に日本語教育はなっていませんし、「一元的相談窓口」は「民間事業者に委託等」となっていますが、田尻はもっと国や地方自治体が関わってほしいと考えています。実際の申請状況をみても、整備費は37団体、運営費は62団体の申請となっていて、当初の目標には及びません。

〇外国人の日本での就労

上でも触れましたが、2019年4月22日の第43回規制改革推進会議で「日本で働く外国人材への『就労のための日本語教育』の枠組み整備に関する意見」が出ました。これは初めて国レベルで就労者への日本語教育に踏み込んだもので、日本語教育学会のホームページには出てきませんが、大事な資料ですので詳しく扱います。

まず、この「意見」をまとめる基となった「保育・雇用ワーキンググループ」でのヒアリングを説明します。2019年3月12日には、西原鈴子さんが「外国人の就労・定住に必要な日本語習得環境整備―『共生・協働センター』(仮称)設立提案―」というテーマで、遠藤織枝さんが「日本で働く外国人労働者に対する日本語教育の在り方について」というテーマで、同年同月22日には、衣川隆生さんが特にテーマは設定していませんが日本国際協力センターの長山和夫さんと一緒に話をしています。このワーキンググループの座長は、中央大学法科大学院教授の安念潤司さんですが、「意見」のマスコミ発表は同会議議長の政策研究大学院大学教授の太田弘子さんでした。因みに、2018年10月15日のワーキンググループの「今期の主な審議事項」には「日本で学ぶ留学生の就職率向上」だけが挙げられています。上に述べた3人とも、外国人の日本での就労については国の関与(衣川さんは豊田市の事例を説明)が必要だとしています。ところが、「意見」になると、ところどころは3人の意見も取り入れられていますが、大きな方向性は異なっていると田尻は感じました。「意見」では、国は厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部外国人雇用対策課が日本国際協力センターに委託して行っている「外国人就労・定着支援研修事業」で「就労に役立つ日本語教育」のガイドラインを示すべき、としています。そして、教育環境の整備は地方自治体主導で行うとして、「多文化共生総合相談ワンストップセンター(現在は「一元的相談窓口」という用語が使われている)」に日本語教育機能を設けるとしています。そして、「現在の日本語学校は、留学生を高等教育機関へ入学させることを主な目的としており、就労目的の日本語教育を担う組織として必ずしも相応しくない」として、この分野は「就労のための日本語教育者」という「自治体が独自に認定している就労のための日本語教育を習得した者等」が担うとしています。また、「CEFRに準拠した能力達成度を精緻化し、就労におけるコミュニケーション能力を定義し評価する仕組みが必要」で、「日本国内で働くことに特化したCan-doリストを作成」すべきとしています。ヒアリングを受けた3人の方は、このようなまとめを受け入れたのでしょうか。また、この3人とも日本語教育学会で活躍なさっている方々で、上に述べた資料も公開されているのに、なぜ日本語教育学会の「お知らせ」に載せないのでしょうか。社会啓発委員会は、この情報を知らなかったのでしょうか。この「意見」が、今後どの程度外国人労働者問題に影響を与えるのかはわかりませんが、田尻には多くの釈然としないものが残りました。

〇特定技能に係る試験

2019年3月28日、法務省出入国在留管理庁のホームページの特定技能の「試験関係」というサイトに、各種の入国の判定に係る試験の内容が出ています。日本語試験についてはその水準を示したうえで読解と聴解の試験をすること、技能試験については分野所管行政機関が定める言語によって実施することが書かれています。

介護日本語評価試験の使用言語は日本語で、指示文は現地語となっています。

宿泊業技能測定試験は2019年4月14日に、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡で行われましたが、フジテレビ系のニュースによれば、受験を申し込んだ761人に対して391人しか受験しなかったそうです。当初の目標とは大きくかけ離れています。国外は、ベトナム・ミャンマーが予定されています。

外食業特定技能1号技能測定試験は、国内では日本語で、国外は「日本語を基本とし、一部問題については試験実施国の現地語」で実施するとあり、コンピュータを使った試験です。試験問題の作成にあたって農林水産省は、食品衛生・日本語教育・作業安全等に係る有識者からなる有識者委員会を設置するとなっていて、出題範囲も示されています。

「国際交流基金日本語基礎テストに係る試験実施要領」では、試験言語は「試験実施国の現地語とする」となっています。国際交流基金のサイトでは、このテストは「日本語で何がどれだけできるか」を測る試験となっています。日本語の試験を現地語でするというのはいくら何でもあり得ませんのでマニラでは日本語で実施されたようですが、こんなあり得ないような情報に対して日本語教育関係者は、どうして何も発言しないのでしょうか。それとも、このサイトを見ていないのでしょうか。気が付いていないとすれば、それはそれで大問題です。試験問題作成は、日本語教育ないし言語教育を専門とし、日本語教育(日本語教材・テスト等開発を含む)に従事した国際交流基金の日本語教育専門家が担当し、外部専門家3人(国際交流基金が委嘱)の確認を受けて確定するとなっていて、レベルはCEFRのA2相当となっています。コンピュータを使った試験で、科目は「文字と語彙」・「会話と表現」・「聴解」・「読解」です。

〇技能実習

特定技能での受け入れが進む一方で、「より実効的な技能実習が可能となる改善を図るため」に、厚生労働大臣伺い定めとして「技能実習の職種のあり方に関する検討チーム」が2019年3月19日にできています。また、同年同月29日に「技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム『調査・検討結果報告書』について」が公表されました。この報告書の「技能実習生に対する支援・保護の強化」では「母国語相談」(田尻注:「母語相談」とすべき)が挙がっていますが、日本語習得支援は挙がっていません。3月23日の日本語教育学会関西支部集会のパネルディスカッションで田尻は、技能実習生に対する日本語習得の時間が足りないことを指摘しています。田尻は、日本語教育の専門家ならば、どの程度の時間があれば技能実習に必要な日本語能力を身に付けられるか、または現場で危険を回避できるかを示すべきと考えます。田尻の私案は、あえてここでは述べません。技能実習制度は問題が指摘されながら、今後も継続されることになっています。

〇EPA看護師・介護福祉士候補者の国家試験結果と「外国人介護人材受入れの仕組み」

2019年3月25日に経済連携協定に基づく外国人看護師候補者の国家試験結果が、同年同月27日に介護福祉士の結果が公表されました。いずれも、インドネシアやフィリピンの候補者に比べてベトナムの候補者の合格者が明瞭に多いことに気付きます。今後も同様の日本語習得支援体制が続けば、結果も同じようなものになるでしょう。インドネシアとフィリピンの候補者への入国前研修体制を見直す時期に来ていると思います。

2019年3月20日に厚生労働省のサイトにできた「介護分野における特定技能外国人材の受入れについて」の中に4種類の「外国人材受入れの仕組み」が出てきます。EPA、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号の四つです。このうち、介護福祉士養成施設を卒業した場合は、2017年度からは介護福祉士になるために国家試験の合格が必要になりました(2021年度までは経過措置がある)。介養協News速報(30 No.2)によれば、2018年3月卒業生で国家試験受験者は137人で、合格者は52人、合格率38%です。現在、外国人留学生でなんとか定員充足率を保っている養成施設も、国家試験の合格率を考えると、今後は外国人留学生の入学者は減少することが予想されます。また、介護職種の技能実習の固有要件としては、コミュニケーション能力の確保として入国時N4、1年後はN3が決められていましたが、その後この要件は緩和されました。特定技能1号では、国際交流基金日本語基礎テストと介護日本語評価試験のみで入国し通算5年で帰国となっていますが、田尻はこのレベルの日本語能力では受け入れ機関でのコミュニケーションに問題があると考えています。この「仕組み」の図では5年後の技能実習と特定技能1号から国家試験へと流れる矢印が付いていますが、田尻はこの二つの矢印の流れによる国家試験合格は難しいと考えています。つまり、この二つの新しい流れを作っても介護の人手不足は緩和されないと考えています。この点について、この問題に関わっている日本語教育関係者の意見をぜひ聞いてみたいものです。

〇地域の日本語教育支援

2019年3月28日、文化庁のホームページに「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のお知らせが出ました。これは日本語教育にとっては大変大事な事業ですが、日本語教育学会のホームページには出てきません。

この事業はプログラムA(地域の日本語教育における実態や課題の把握と日本語教育を実施するための具体的な計画策定等)と、プログラムB(地域における日本語教育推進のための体制づくりのため司令塔となる人材の確保や日本語教室の運営等)に分かれています。この新規事業の予算総額は4億9700万円で、プログラムAは1年間30件程度で、補助率は1/2、補助額は1件当たり450万円程度、プログラムBは3~5年で17件程度、補助率は1/2、補助額は1件当たり1900万円程度です。提出期間は、3月28日~5月13日です。この事業の「Q&A」12に、外国人児童生徒に対する学校の教育課程外で行われる日本語教育や、ブラジル人学校等で行われる日本語教育は補助の対象になるとあり、対象が広がった点は大いに評価できます。また、同15では、本事業で実施する日本語教育の全てを域内の大学や日本語学校に委託できるともあります。ただ、田尻は上にも述べたように、民間の機関に委託する場合は国などのチェックが必要で、補助率や補助額の引き上げも必要だと考えています。

〇日本語教育機関

「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」で日本語教育機関を法務大臣告示から抹消する基準としての厳格な数値基準の導入を検討することが書かれていますが、その件についてのとりまとめが、2019年4月17日に文部科学省の「日本語教育機関について」のサイトに出ました。「日本語能力に係る試験の合格率の基準に関する有識者会議の報告について」が、それです。会議の合意事項、協力者会議における主な意見、外国人留学生の日本語能力を測定するための基準などが挙げられていますが、「開催要綱」の中に協力者会議構成員として田尻の名前もあります。今後、法務省のパブリックコメントとして同じ内容が出てくると思います。そのため、この場では、田尻の説明は控えます。全ての資料を読んだ上で、多くの意見を法務省宛に出してください。この基準は、今後の日本語教育機関のあり方を決める大変大事なものです。この資料も、日本語教育学会のホームページには出てきません。2019年4月1日公示の「出入国在留管理基本計画案について」という法務省のパブリックコメントにも、「日本語教育機関の適正化」が出てきます。2019年2月19日現在の法務省告示の日本語教育機関は、749校です。

〇今後の国の日本語教育関連施策に関する田尻の提言

・日本語教育を一括して担当する部署を文部科学省内に設置してほしいと思っています。

・大学の日本語教師養成課程のカリキュラムのチェックが必要です。日本語教育機関の法務省告示抹消基準の設定だけでは、日本語教育機関の質の担保はできません。文化庁により、既に420時間の日本語教師養成研修講座の研修内容の確認が始まっています。

・現時点では体制が整っていませんが、将来的には日本語教師の資格を国家資格名称独占という資格として位置付けるべきです。この点については、田尻が既に2017年7月4日の日本語教育推進議員連盟の「立法チーム勉強会」で発表しています。私が知る限りでは、日本語教育関係者が日本語教師の公的資格に言及した最初のものです。ただ、この会は総会ではなかったとして日本語教育学会の「お知らせ」には出てきません。この時の発表内容は、「2017年度の日本語教育施策」(『龍谷大学グローバル教育推進センター研究年報』第27号)に書いています。

・大学での留学生のための「日本語」の担当者の資格や授業内容が一定になっていないので、文部科学省による調査が必要です。

・就労のための外国人労働者の日本語能力については、入国時のみにチェックしていますが、入国後も日本語習得支援の仕組みを作ることが必要です。特定活動の中の外国人建設就労者・外国人造船就労者・製造業外国人従業員・国家戦略特区での家事支援人材と農業支援外国人などの日本語能力のレベルはバラバラで問題があります。

〇推薦書

望月優大『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』(2019年3月、講談社現代新書)

最新の資料を使い、必ずしも日本語教育に特化したものではありませんが、大きく日本の外国人受け入れ問題を扱った良書です。ぜひお読みください。

 

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