日本語指示表現の文脈指示用法の研究 庵功雄著 日本語指示表現の文脈指示用法の研究 庵功雄著
2019年2月刊行

ひつじ研究叢書(言語編) 第157巻

日本語指示表現の
文脈指示用法の研究

庵功雄著

ブックデザイン 白井敬尚形成事務所

A5判上製函入り 288頁 定価5,200円+税

ISBN 978-4-89476-957-1

ひつじ書房
Study of the Anaphoric Usage of Demonstrative Expressions in Japanese
Iori Isao


日本語の指示表現の文脈指示用法で最も多く使われるのは「この」と「その」である。本書では、両者の機能上の異なりをコーパスでの分布を含め多面的に検討する。限定詞という観点からは、「この」「その」は英語やフランス語などの「定冠詞」に対応すると考えられるが、その関係はどのようになっているのか。本書では、名詞句の指示、照応に関する諸概念を一般言語学的比較に耐える形で規定した上で、この課題の解決を試みる。


【目次】


まえがき

 Ⅰ 本研究の理論的枠組み

第1章 序論
1. 日本語学と一般言語学
2. 本研究の目的と研究課題
3. 本章のまとめ

第2章 機能主義と対照研究
1. 機能主義と形式主義
2. ハリデーの機能主義の特徴
3. 機能主義、形式主義と対照研究
4. 対照研究とその目的
 4.1 宮島(1983)
 4.2 井上(2013, 2015)
5. ハリデー理論を応用する際の留意点
6. 本章のまとめ

 Ⅱ 記述のための装置

第3章 名詞の定性と指示性
1. 定と不定
 1.1 定名詞句のタイプ
 1.2 「定」と「定冠詞」
 1.3 定性と定可能性
2. 特定と不特定
3. 定情報
4. 本章のまとめ

第4章 分析のレベル
1. 「作りの悪さ(ill-formedness)」から見た分析のレベル
2. 文法性
3. 文連続のつながり
4. テキスト
5. 結束性
6. 一貫性
7. 本章のまとめ

第5章 文脈をめぐって
1. 文脈の3レベル
2. 無文脈と文法性
3. 閉文脈と結束性
4. 開文脈と一貫性
5. 本章のまとめ

第6章 テキストタイプをめぐって
1. Halliday & Hasan(1976)におけるレジスター
2. 2つのテキストタイプ
3. 自己充足型テキストと非自己充足型テキスト
4. 本章のまとめ

第7章 テキスト研究と文法研究
1. テキスト言語学について
2. 文法と語用論
3. 文脈のタイプと文法、語用論
4. テキストタイプと文法、語用論
5. 本研究の立場
6. 先行研究の概観
 6.1 Halliday & Hasan(1976)(H&H)
 6.2 林(1973=2013)
 6.3 長田(1984)
7. 本章のまとめ

第8章 指示詞(指示表現)の文脈指示用法
1. 指示詞と指示表現
2. 指示詞の機能
3. 現場指示と文脈指示
4. 2つの文脈指示
5. 知識管理に属する文脈指示
6. 文脈指示への2つのアプローチ
7. 金水・田窪モデルの功績
8. 金水・田窪モデルの限界
9. 結束性に基づく文脈指示
10. 指示表現の分類
11. 本章のまとめ

第9章 結束装置とその関連概念
1. 結束装置の定義
2. 結束装置の種類
 2.1 指示表現
 2.2 磁場表現
3. 項の非出現(いわゆる「省略」)
4. 「省略」という用語について
5. 1項名詞
6. 指示表現と磁場表現が結束装置である理由
7. テキストの構造化装置
8. タクシスに関わる要素
 8.1 アスペクト
 8.2 テンス
9. 前景-後景に関わる要素
 9.1 「のだ」
 9.2 認識的モダリティ
10. 結束装置とテキストの構造化装置の関係
11. 本章のまとめ

 Ⅲ 日本語指示詞の文脈指示用法の記述

第10章 指定指示の記述
1. 問題となる言語現象
2. 記述のための装置
 2.1 トピックとの関連性
 2.2 テキスト的意味(の付与)
3. 「この」しか使えない場合
 3.1 言い換えがある場合
 3.2 ラベル貼りの場合
 3.3 遠距離照応の場合
 3.4 トピックとの関連性が高い場合
 3.5 「この」しか使えない場合の統一的説明
4. 「その」しか使えない場合
 4.1 テキスト的意味との関係
 4.2 「その」しか使えない場合の考察
5. 「この」も「その」も使える場合
6. 「ゼロ指示」の記述
 6.1 ゼロ指示が可能であるための必要条件
 6.2 ゼロが現れる環境
 6.3 内包型の言い換えに由来するゼロ
 6.4 トピックとの関連性が低い(先行詞が顕著ではない)場合
 6.5 トピックとの関連性が高い場合
 6.6 3形式の分布
7. 「この」と「その」の機能差
 7.1 外延的限定詞としての「この」
 7.2 内包的限定詞としての「その」
8. 「この」「その」と「は」と「が」
 8.1 問題となる言語現象
 8.2 定量的分布
  8.2.1 調査の概要
  8.2.2 調査の結果
 8.3 機能的有標性に基づく現象の解釈
 8.4 その他の場合
 8.5 大規模コーパスによる追試
  8.5.1 調査の内容
  8.5.2 調査の結果
9. 本章のまとめ

第11章 代行指示の記述
1. 問題となる言語現象
2.1項名詞と0項名詞
 2.1 先行研究
 2.2 名詞の項構造
3. テンスを超えない照応
4. テンスを超える照応
5. 名詞句の構造
6. 結束性理論の中の1項名詞の位置づけ
7.1項名詞、0項名詞の定量的分布
8. 限定詞の選択における通時的変化 「その」と「ゼロ」
 8.1 コーパスによる調査
 8.2 考察
9.1項名詞と指定指示、代行指示
8. 本章のまとめ

第12章 名詞の結束装置としての機能
1. 名詞の特性が関与する言語現象
2. 間接照応と名詞の関係づけられ度
 2.1 問題となる言語現象
 2.2 1項名詞と0項名詞
 2.3 0項名詞と名詞の関係づけられ度
 2.4 先行研究
 2.5 ノ格名詞句のタイプ
 2.6 名詞のタイプとDOR
 2.7 名詞の関係づけられ度と間接照応
 2.8 0項名詞と限定詞
3. 他言語における名詞の項
4. 日本語における名詞の項の機能
5. 本章のまとめ

 Ⅳ 一般言語学との対話を目指して

第13章 定冠詞と文脈指示
1. 日本語研究において「定冠詞」が重要である理由
2. 定冠詞が存在するとは
3. デフォルトの選択肢 論理的デフォルト的定(LDD)
4. 「定冠詞」と唯一性条件
5. 「この」が定冠詞か「その」が定冠詞か
6. フィンランド語(Chesterman 1991)
7. 本章のまとめ

第14章 指示と代用
1. 2種類の対立
2. H&Hと指示、代用
3. 指示に属する現象
4. 指示詞と接続詞
5. 「それが」
 5.1 テキスト的意味の付与と予測裏切り性
 5.2 有標の文脈と有標の形式
 5.3 指示性から見た指示詞と接続詞
 5.4 「それが」の意味の源泉について
6. 予測裏切り性を持つその他の接続詞
 6.1 「それを」
 6.2 「それなのに」「それにもかかわらず」
7. 代用に属する現象
 7.1 代行指示
 7.2 名詞句の一部の代用
 7.3 動詞句代用
 7.4 先触れ語
 7.5 強調表現
 7.6 真性モダリティを持たない文
 7.7 現象の説明
8. 「指示」「代用」と接続詞
9. 本章のまとめ

第15章 Halliday の機能主義と文脈指示
1. ハリデーの機能主義と日本語への適用
2. 「指示」「代用」と日本語指示表現の文脈指示用法
3. 本章のまとめ

 V 本研究の貢献と今後の課題

第16章 文脈指示研究に対する本研究の貢献
1. 研究の枠組み
2. 言語事実の掘り起こし
3. 結束装置とテキストの構造化に関わる装置
4. 名詞の構造とテキスト的機能
5. 「省略」をめぐって
6. 「文法」のレベル
7. 本章のまとめ

第17章 対照研究に対する本研究の貢献
1. 言語教育と対照研究
2. 概念規定の明確化
3. 分析上の新しい視点
4. 限定詞と定冠詞
5. 本章のまとめ

第18章 日本語教育に対する貢献
1. 「言い換え」と日本語教育
 1.1 名詞句による言い換えと文による言い換え
 1.2 言い換えとラベル貼り
 1.3 「のだ」と「わけだ」
2. 指示詞の機能の違いと外国にルーツを持つ子どもに対する日本 語教育
3. 本章のまとめ

参考文献
あとがき
索 引




【著者】
庵功雄(いおり いさお)
〈略歴〉
1967 年大阪府生まれ。大阪大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。大阪大学文学部助手、一橋大学留学生センター専任講師などを経て、現在一橋大学国際教育交流センター教授。専門はテキスト言語学、日本語学、日本語教育。

〈主な著書〉
『日本語におけるテキストの結束性の研究』(くろしお出版、2007 年)『一歩進んだ日本語文法の教え方1,2』(くろしお出版、2017、2018 年)、『新しい日本語学入門(第2版)』(スリーエーネットワーク、2012 年)、『やさしい日本語』(岩波書店、2016 年)など。



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