語彙論と文法論と 村木新次郎著 語彙論と文法論と 村木新次郎著
2019年10月刊行

ひつじ研究叢書(言語編) 第156巻

語彙論と文法論と

村木新次郎著

ブックデザイン 白井敬尚形成事務所

A5判上製函入り 616頁 定価8,800円+税

ISBN 978-4-89476-936-6

ひつじ書房
Lexicology and Grammar
Muraki Shinjiro


語彙と文法とのかなめになるのは、単語である。単語の語彙的な意味の体系性を問うのが語彙論であり、単語がくみあわさって、文をつくる文法(形態論と統語論と形態統語論)の体系性を問うのが文法論である。昨今の日本語研究では、「文法と意味」「シンタクスと意味」という姿勢が主流にみえる。そこでは、単語が等閑視され、形態論が軽視されている。本書は、日本語の単語と形態論をめぐる諸問題をあつかう。言語間の対照にもいいおよぶ。

【目次】
まえがき

I 語彙論と文法論とをめぐる諸問題
第1章 語彙と文法
1. 単語の位置―語彙と文法との接点―
2. 単語の認定
3. 単語の語彙的な特徴
3.1 語彙の体系性
4. 単語の語彙的意味
5. 単語の文法的な特徴―統語論的な特徴と形態論的な特徴―
5.1 単語の統語論的な特徴
5.2 単語の形態論的な特徴
6. 品詞と文の部分
7. 単語間の統語的関係
7.1 単語の依存関係
7.2 並列関係
8. 語彙の分類から文法体系へ
8.1 形容詞の位置と範囲
8.2 動的なシソーラスの可能性

第2章 日本語の品詞をめぐって
1. 品詞とはなにか
2. 単語の位置―語彙と文法との接点―
3. 単語の認定
4. 日本語の品詞体系
5. 形容詞の範囲の拡大
5.1 規定用法のみをもつ形容詞
5.2 述語用法のみをもつ形容詞
6. 後置詞
7. 従属接続詞
8. まとめ
Regarding Parts of Speech in Modern Japanese

第3章 単語の意味と文法現象
1. 単語の内容と形式
2. 統語構造・カテゴリカルな意味
3. 語形・統語的機能
4. 慣用句・機能動詞結合
5. 「成功をみる」「採決をみる」という言い方
6. まとめにかえて

第4章 語彙と文法との境界

第5章 「―ながら」の諸用法
1. 問題の所在
2. 関与する要因
3. 単語を構成する「―ながら」
4. 名詞述語+ながら
5. 形容詞述語+ながら
6. 動詞述語+ながら
6.1 「Pながら、Q」の時間性―同時性と継起性―
6.2 順接と逆接―逆接の条件―
7. まとめ

第6章 言語の対照記述をめぐって
1. はじめに
2. 語彙の量的構造の比較
3. 語彙の体系性の比較
4. 比較のための文法範疇

第7章 祝う・祈る・呪うの現代的用法
1. 祝う
2. 祈る
3. 呪う
4. 結び

II 語彙の体系性をめぐる諸問題

第1章 意味の体系
1. 単語の性質
2. 語彙的な意味
3. 語彙の体系性
4. 単語の範列的な関係
4.1 等質性 単語(A)≡ 単語(B)
4.2 類似性 単語(A)≒ 単語(B)
4.3 階層性 単語(A)⊃ 単語(B)・単語(C)・単語(D)、(C)、(D)……
4.4 対義性(両極性)単語(X)⊃ 単語(A):単語(B)
5. シソーラス
6. 二項分類と対義語
6.1 対義語の諸タイプ
6.2 対義性のなりたつ条件
6.3 対義語と有標性
6.4 対義語の非対称性
6.5 対立の融合と中和

第2章 語彙研究のために
1. ふたつの接近―命名論と意味論―
2. 語彙の体系性
3. 語彙の単位

第3章 対義語の輪郭とその条件
1. 対義語の輪郭
2. 対義語の条件
3. 対義語と品詞
4. 対義語と語種
5. 対義語と文体的特徴
6. 対義語と語形
7. まとめ

第4章 運動の強調表現—合成動詞の場合—
1. 問題の所在
2. 強調表現の言語上の手つづき
2.1 音声上の手つづき
2.2 表記上の手つづき
2.3 語彙的な手つづき
2.4 文法的手つづき
3. 合成動詞の構造と合成動詞のなかの強調
3.1 前要素による強調
3.2 後要素による強調
3.3 重複による強調

第5章 現代語辞典の輪郭
1. 辞書とは何か
2. 辞書の分類
2.1 辞典と事典と字典
2.2 共時的な辞典と通時的な辞典
2.3 文献学的な辞典と言語学的な辞典
2.4 標準語辞典と方言辞典
2.5 日常語辞典と専門語辞典
2.6 語彙の全体をあつかった辞典と特定の語彙だけあつかった辞典
2.7 記述的な辞典と規範的な辞典
3. 辞書の構成
3.1 見出し
3.2 形態
3.3 意味の記述
3.4 用例

第6章 語彙教育
1. 語彙の諸相
2. 専門語のあつかい
3. 語彙研究の成果と日本語教育の応用
4. 語彙体系と指導法


III 対照語彙論をめぐる諸問題

第1章 日本語の語彙と日本文化
1. 文化の反映としての語彙
2. 日本語の語彙の特徴

第2章 言語間の意味分野別語彙量の比較—日本語・中国語・ドイツ語の場合—
1. 調査の対象と目的
2. 調査の性質と問題
3. 調査の結果と分析

第3章 巨視的対照語彙論のこころみ—ドイツ語と日本語を例として—
1. 基本語彙とその対照をめぐる諸問題
2. 概念別辞書―比較の第三項―
3. 日独両言語の意味分野別語彙量の比較
4. まとめ

第4章 日本語とドイツ語の「基本語彙」をくらべる
1. はじめに
2. 単位
3. 概念別辞書
4. 語彙の分類―方法と結果―
5. 語彙量に影響を及ぼす言語的諸条件

第5章 日独両言語の自然現象の表現をめぐって
1. 気象
1.1 気象にかかわる言語形式
1.2 動詞依存のドイツ語と名詞依存の日本語
1.3 所有構文のドイツ語と存在構文の日本語
2. 一日・季節のうつりかわり
2.1 非人称構文の有無
2.2 類似する季節のうつりかわりの表現
3. 光
4. 火・煙
4.1 動詞依存のドイツ語とオノマトペ依存の日本語
4.2 炎や煙の存否
5. 音
5.1 動詞依存のドイツ語とオノマトペ依存の日本語
5.2 ドイツ語の形式言語と日本語の形式述語
5.3 音に関する形容詞
6. におい
6.1 においと快不快
6.2 日本語の「においがする」
7. 味
8. まとめ


IV 文法論をめぐる諸問題

第1章 単語・品詞・動詞の活用をめぐって
1. 単語の認定とその分類(品詞論)
1.1 「テニヲハ」とその功罪
1.2 ロドリゲス
1.3 冨士谷成章
1.4 鈴木朖
1.5 鶴峯戊申
1.6 田中義廉
1.7 大槻文彦
1.8 山田孝雄と松下大三郎
1.9 橋本進吉
2. 動詞とその形態論
2.1 ロドリゲス
2.2 チャンブレン
2.3 田丸卓郎
2.4 芳賀矢一
2.5 佐久間鼎
2.6 ブロック
2.7 宮田幸一
2.8 三上章
2.9 芳賀綏
2.10 鈴木重幸
2.11 陳信徳
3. 寺村秀夫と鈴木重幸の活用論

第2章 日本語教育文法の問題点
1. 日本語教育文法の問題点
2. 体系性の欠如―動詞を例に―
3. 語彙的な部分と文法的な部分との分離―名詞を例に―
4. 形式重視の文法―形容詞を例に―
5. むすび

第3章 日本語の文のタイプ・節のタイプ
1. 文と単語
2. 文のタイプ
2.1 述語の存否による文のタイプ
2.2 述語の種類による文のタイプ
2.3 主題の存否による文のタイプ
2.4 主語の存否による文のタイプ
2.5 文のモダリティによるタイプ
2.6 文らしさの段階
3. 節のタイプ
3.1 連体節
3.2 連用節

第4章 現代日本語における分析的表現
1. 名詞が後置詞をしたがえる表現
1.1 名詞の文のなかでの存在形式
1.2 後置詞による表現
2. 名詞が形式動詞をしたがえる表現

第5章 日本語の形容詞は少ないか
1. 日本語形容詞少数説
2. 形容詞の範囲
2.1 いわゆる「形容動詞」のあつかい
2.2 第三形容詞の存在
2.3 第四形容詞の可能性
2.4 「〜ある」の形容詞性
2.5 意味分類体の辞書
3. 派生形容詞の存在

第6章 ヴォイスのカテゴリーと文構造のレベル
1. ヴォイスの定義
2. 文構造のレベル
3. ヴォイスのサブカテゴリー
3.1 受動文
3.2 間接受動文
3.3 使役文
3.4 他動詞文と自動詞文
3.5 相互文
3.6 再帰文
3.7 可能文・自発文・希望文
3.8 授受文
3.9 「してある」文
4. むすび

第7章 迂言的な受け身表現
1. 序
2. 総合的な形式と迂言的な形式
3. はたらきかけとうけみ
3.1 はたらきかけとうけみの対立の欠如
3.2 語彙的なうけみと迂言的なうけみ
4. はたらきかけ―うけみと他の文法的カテゴリー―

第8章 機能動詞の記述―日本語とドイツ語を例として―
1. 機能動詞の定義
2. 語彙的な派生と統語的な派生
3. 機能動詞表現の文法的特徴

第9章 外来語と機能動詞―「クレームをつける」「プレッシャーをかける」などの表現をめぐって―
1. 機能動詞とはなにか
2. 日本語の中の外来語の位置
3. 動作名詞をめぐって
4. 動作名詞の諸相
5. 道具名詞をめぐって
6. まとめ

第10章 連用形の範囲とその問題点
1. 連用形とはなにか―連用形の位置とその範囲―
2. 連用用法の下位分類とその問題点
2.1 名詞の場合
2.2 動詞の場合
2.3 形容詞の場合

第11章 日本語の後置詞をめぐって

第12章 日本語文法への疑問―活用・ヴォイス・形容詞―
1. 活用は何のためにあるのか
2. ヴォイス
3. 第三形容詞論を進めたところに何が見えるか
3.1 日本語の形容詞は少ないか
3.2 第三形容詞の存在
3.3 品詞論のみなおし


V 書評4編
第1章 森岡健二著『日本文法体系論』

第2章 八亀裕美著『日本語形容詞の記述的研究―類型論的視点から―』

第3章 山橋幸子著『品詞論再考―名詞と動詞の区別への疑問―』

第4章 宮岡伯人著『「語」とはなにか・再考―日本語文法と「文字の陥穽」―』

あとがき




【著者】
村木新次郎(むらき しんじろう)
〈略歴〉
1970年、京都府立大学(国語国文学専攻)卒業。1970年〜1988年、国立国語研究所員。1988年〜2012年、同志社女子大学教授。2012年〜2017年、同志社女子大学特任教授。同志社女子大学名誉教授。ドイツ語研究所(在ドイツ連邦共和国)客員研究員、北京外国語大学(在中華人民共和国)客員教授などを歴任。
〈主な著書・論文〉
『日本語動詞の諸相』(ひつじ書房、1991年)、『文の骨格』(日本語の文法1、共著、岩波書店、2000年)、「意味の体系」(『朝倉日本語講座第4巻 語彙・意味』、朝倉書店、2002年)、『日本語の品詞体系とその周辺』(ひつじ書房、2012年)など。


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