[シリーズエディター仁田義雄・村木新次郎]

 もはや、日本語研究は、“いわゆる国語学者”だけの専有領域ではなくなってきている。 言語学や各個別言語を専門とする者の中にも、日本語の研究を行ったり、日本語との対 照研究を行ったりする者が増えてきている。さらに言えば、言語研究プロパーでない(た とえば、言語情報処理等)人達からの言語に対する発言・研究も増えつつある。したがっ て、日本語についての研究と言えども、伝統的な国語学の成果を踏まえながらも、もは や、それら諸領域での研究成果を無視するわけにはいかないものになってきている。

 こういう時期に、比較的若手を中心として、日本語を核としたさほど大部ではないモ ノグラム的な研究叢書を編むことにしたのは、理論に傾いた研究と実証に重きを置く研 究に梯子を掛け、日本語を中心として研究を進めている研究者と、何らかの点で日本語 にも関心を持つ研究者との間に橋を渡すことのできる少しでも新しい研究成果・研究方 法を呈示できればとの思いからである。

 この叢書が、日本語研究、広くは言語研究に、ささやかながらも一石を投ずることが できれば、編者ならびに執筆者にとってこれに過ぎたる喜びはない。

【日本語研究叢書の発刊にあたって】

 近年、日本語研究は、新しい展開を示しています。これまでの国語学の研究の範囲を 超え、海外の言語研究の流れから相互的に影響を受け、また、日本語情報処理、認知言 語学などの影響、また、日本語教育などからの様々な要請などにより、特に現代語の研 究の場で、活発に議論が巻き起こり、相互に影響を与え、大きな成果があがりつつあり ます。もちろん、従来の国語学の蓄積を軽んずるものではなく、明治期に国語学と博言 学(言語学)にわかれた日本語の研究がここにきて、新たな統合の時期を迎えていると いうことが言えるのではないでしょうか。さらに、英語、フランス語、中国語などの外 国語との対照研究も広く行われつつあり、日本語を色々なレベルで客観的に研究する土 壌が育ってきている状況にあることと思われます。日本語も新たな時期に達したのだと 思います。小社では、そうした新しい局面を重視し、これからの日本語研究のために『日 本語研究叢書』と題して、刊行して行くことにいたしました。まず、第1期を刊行し、続 けて第2期、第3期と刊行して行きたいと存じます。

 現在、日本語研究の世界で、優れた業績を上げ、また上げつつある中堅・若手の気鋭 の研究者によって執筆される本叢書が日本語研究のいっそうの発展に寄与することを信 じ、また、祈っております。ぜひとも皆様がたのご支援とご鞭撻をお願い申し上げます。

第1期


1―1 日本語動詞の諸相(5刷)

村木新次郎著 A5判 348ページ 本体4000円(税込4200円)  ISBN01-3 

「動詞の形態論」、「動詞の統語的特徴」、「形式動詞とその周辺」の三部構成による現代日 本語の動詞の分析。動詞の精密な研究として、エポックをなしており、今後の研究にお いては当然踏まえられるべきものである。活用の詳細な研究は、日本語を教える人々に も読んでもらいたい。


1―2 古代日本語動詞のテンス・アスペクト

―源氏物語の分析― (重版中)

鈴木泰著 A5判 358ページ 本体4100円(税込4305円)  ISBN08-0

古代語の動詞の研究は検証されない「通説」であったことを批判しつつ、実証的な論証 から古代語の動詞の仕組みにせまる。源氏物語を題材にした分析は、同時に物語のテク ストの性質にもせまる。文学研究者にも必読の書として評価の高い書。


1―3 現代日本語の語構成論的研究(2刷)

―語における形と意味―

斎藤倫明著 A5判 346ページ 本体4700円(税込4935円)  ISBN06-4

現代語を語構成の立場から、事実を丁寧に追いながらそして理論的に分析。「言語単位を めぐって」「形容詞語幹をめぐって」「複合動詞をめぐって」「語構成と意味」の4部から なる。<2刷にて索引を増補>


1―4 日本語のモダリティと人称(6刷)

仁田義雄著 A5判 280ページ 本体3200円(税込3360円)  ISBN02-1

文の成り立ち、文とはなにかというものを考えるときに必須であるモダリティ論の基礎 的文献であり、必読の重要な書。文というものに興味を持つ言語研究者以外の人々にも すすめたい。


1―5 視点と主観性(3刷)市河賞受賞!

―日英語助動詞の分析―

澤田治美著 A5判 338ページ 本体4400円(税込4620円)  ISBN17-X

テクストの分析に重要な「視点と主観性」といった観点からの日英語助動詞の比較研究
である。この観点は、言語の実際面の考察に必要であり、微妙な言語現象への考察は、言 語研究のみならず文学研究にも有益である。

1―6 日英語の否定 加藤泰彦著  

1―7 したいこととすべきこと 工藤浩著  1

第2期


2―1 認知文法論(3刷)

山梨正明著 A5判 320ページ 本体4200円(税込4410円)  ISBN42-0

待望久しい認知言語学の第一人者による文法論。カテゴリー化のプロセス、イメージス キーマとメンタルモデル、転義と文法化のプロセス、メタファーとメトニミー、視点と プロトタイプ、意味の慣用化とブリーチング等の問題を実証的に考察しながら、言葉と こころのメカニズムにかかわる言語研究の新しい方向を探究。認知科学の観点から、言
葉と人間の認識のメカニズムの解明を目指す本格的な研究書。


2―4 文法と語形成(3刷)金田一京助記念賞受賞!

影山太郎著 A5判 395ページ 本体4854円(税込5097円)  ISBN19-6

日本語における語形成と統語論・意味論が関わり合う種々の現象を観察し、そこから、生 成文法における形態論の在り方を理論的に考察する。とりわけ、語彙的な語形成と統語 的な語形成を包括するモジュール理論を提唱する。


2―7 アスペクト・テンス体系とテクスト(2刷)

工藤真由美著 A5判 317ページ 本体4200円(税込4410円)  ISBN59-5

日本語のアスペクト・テンス体系はどうなっているか。この分野における最近の充実し た成果。時間の問題はテクストの問題でもあり、語りの問題でもあることから,言語研 究者ばかりでなく、原理的にテクストを研究する際にも有益。

2―2 日本語の引用 鎌田修著

2―3 日本語の存在表現の歴史 金水敏著

2―5 言語運用と言語事実 アンドレイ・ベケシュ著

2―6 日本語における談話の管理について 田窪行則著

2―8 日本語形態論(「語の活用と文の活用」より書名変更)  城田俊著 刊行!

第3期執筆者・概要案内

●野村眞木夫 上越教育大学助教授

(略歴)1950年東京都に生まれる。1983年北海道大学大学院博士課程退学。弘前学院大 学助教授を経て現職。

(主要論文、研究書)『ケーススタディ日本語の文章・談話』(おうふう、1990、共著)「説 明の機能―説明の表現の文脈効果」『表現研究』58(1993)「描出」『国語研究』10(1996)

◎日本語のテクスト―機能・関係・様相・効果・選択―  約250ページ

 現代日本語のテクストの組織化を研究対象として、コミュニケーションに即した、動 態的な考察を試みる。まず、テクストの展開において、諸要素がどのように機能して関 係性をはりめぐらしているのか、その様相を探る。さらに、そういった関係性が認知さ れるとき、テクストがどのような文脈的・文体的な効果を発揮するのか、総称表現や描 出表現など具体的な表現類型と意味の選択をとりあげながら分析する。

●藤田保幸 滋賀大学教育学部助教授

(略歴)1958年大阪府に生まれる。1986年大阪大学博士課程中退。愛知教育大学助教授
を経て現職。

(主要論文、研究書)「文中引用句『〜ト』による『引用』を整理する」『論集日本語研究 (一)現代編』(明治書院、1986)「引用されたコトバの記号論的位置づけと文法的性格」 『詞林16』(1994)「引用論における『話し手投写』の概念」『宮地裕・敦子先生の古稀記 念論集日本語の研究』(明治書院、1995)

◎タイトル:未定(「引用」に関するもの」)

 本書は、日本語の引用表現・話法について、意味・統語・表現論的に考究しようとす るものである。第一部では、日本語の引用表現・話法に関する研究史を概観し、諸家の 所説の達成と問題点を検討しつつ、それらと対峙させる形で、筆者自身の所論を示す。第 二部では、引用研究の新たな展開の可能性を探って、いくつかの個別的な問題について ケーススタディを行う。

●杉戸清樹 国立国語研究所言語行動研究部第一研究室室長

(略歴)1949年愛知県に生まれる。1975年名古屋大学大学院修士課程修了。国立国語研 究所研究員を経て現職。

(主要論文、研究書)『企業の中の敬語』(国立国語研究所報告、1982、共著)『言語行動 における日独比較』(同1984、共著)『談話行動の諸相』(同1987、共著)『社会言語学』
(おうふう、1992、共著)『デイリーコンサイス漢字辞典』(三省堂、1995、共編)「言語 行動としての待遇表現」『日本語学』2-7(1983)「言語行動についてのきまりことば」『日 本語学』8-2(1987)「言語行動における省略」『日本語学』12-10(1993)「お礼に何を申 しましょう」『日本語学』13-7(1994)

◎言語行動という視点(仮題) 約250ページ

 言語行動という視点の広がりと可能性を議論する。この際、先行の言語行動論的な研 究を踏まえつつ、日本語の社会言語学的調査研究の分野での言語行動研究を具体的に再 吟味しながら、主として、対人的な配慮が言語行動の諸側面にほどこされるメカニズム に焦点を置いて考察する。

●西山佑司 慶應義塾大学言語文化研究所教授

(略歴)1943年東京都に生まれる。1974年M.I.T.大学院博士課程修了(Ph.D.)。慶應義塾 大学言語文化研究所助教授を経て現職。

(主要論文、研究書)「『象は鼻が長い』構文について」『慶應義塾大学言語文化研究所紀 要21』(1989)「『カキ料理は広島が本場だ』構文について」『慶應義塾大学言語文化研究 所紀要22』(1990)「コピュラ文における名詞句の解釈をめぐって」『文法と意味の間:国 広哲弥教授還暦退官記念論文集』(くろしお出版、1990)「日本語の意味と思考―コピュ
ラ文の意味と構造を手がかりに―」『日本語論2』(山本書房、1994)

◎日本語名詞句の意味論と語用論 約250ページ

 文中に登場する名詞句の意味解釈の問題を、とくに指示性・非指示性という観点から 考察する。まず、先行研究の問題点を指摘した上で、「変項名詞句」という概念の導入が 必要であることを論じる。この概念を用いて、「は」と「が」の区別に関する重要な側面 を指摘する。そして、日本語のコピュラ文にたいする意味解釈、「変わる」「分かる」「知 る」「ある」「いる」などを含む文にたいする意味分析を行い、名詞句と疑問文構造との あいだの意味論的・語用論的関わりを論じる。

●石崎公曹(略歴)奄美大島龍郷町瀬留出身。台北帝大予科・七高から同志社大卒業。高 校・中学・養護学校教諭を経て、現在郷土研究家、奄美郷土研究会会員。1928年生まれ。

●松本泰丈(略歴)埼玉県秩父出身。東京大学大学院修士課程修了。山梨大学教授、奄美 郷土研究会会員。1941年生まれ。

◎奄美大島(北部)方言の文法(共著)

 地元の方言研究者と本土研究者の共同作業によって、奄美大島(北部)方言の文法を、 形態論を中心として体系的に記述する。北部方言に属する龍郷町瀬留集落のことばを、動 詞・名詞・形容詞と品詞ごとに考察をくわえる。そのさい、文法的な面と語彙的な面の
かかわりあいにふれながら、文法的なかたちのもつ意味=内容面をほりさげていくよう にした。

●日比谷潤子 慶應義塾大学国際センター助教授

(略歴) 1957年東京都に生まれる。1982年上智大学大学院外国語学研究科博士前期課程 修了。1988年ペンシルヴェニア大学大学院博士課程修了(言語学、Ph.D取得)。

(主要論文、研究書) 「ヴァンクーヴァーの日系人の言語変容」『アメリカの日系人―都 市・社会・生活―』(同文舘出版、1994)“The velar nasal in Tokyo Japanese: A case of diffusion from above”Language Variation and Change 7 (1995)“Denasalization of the velar nasal in Tokyo Japanese: Observations in real time”Towards a Social Science of Language (John Benjamins 1996)

◎言語接触と言語変容―日系二世カナダ人の日英語における変異― (仮題)

 二つ以上の異なった言語体系が個人或いは集団の中で接触することを、言語接触とい う。言語接触の具体例は、歴史的にも共時的にも少なくない。本書では、カナダのヴァ ンクーヴァーとトロントで日系1、2、3、4世カナダ人から収集した自然談話録音資料を 対象に、日本語・英語の言語接触を取り上げ、この二つの言語が接触した結果、音声・音 韻・形態・統語・意味の各レヴェルでおこった言語変容の諸相を解明していく。