訳者あとがき

インターネットは、ブームの真っ最中だが、そのブームの中心は、ホームページのようだ。ホームページの場合、自作して公開するということも あるが、多くの場合、見に行ったり、情報を取ってくるということが中心だろう。これでは、テレビを見るのとかわらない受動的な態度ではないか? それではもったいない。もしまだなのなら、電子メールを使ったり、ディスカッショングループに参加したりすることをおすすめしたい。電子メールやディスカッショングループは情報の相互交換の場であり、その場でヴァーチァルな出会いがある。距離を超えて、地球の裏側の人とも直接、情報交換することもできる。パソコン通信も同様だ。具体的な情報交換ができ、仕事でも、趣味でもいままでとは違ったつきあいができて、役にも立つし、また楽しいものである。インターネットの可能性はむしろここにあると言ってもいい。見ず知らずの人がネット上で「出会っ」て、意気投合して新しい何かが生まれることもあるし、場合によってはロマンスが生まれることさえもある。

だが、現実にはうれしい「出会い」ばかりではない。実社会と同様ケンカもあれば、おかしな人からメールが届くこともある。意見が合わない人と議論になれば、いつのまにかけんか腰になってしまうこともある。面と向かってであれば言わないようなことを言われたり、言ってしまったり、実社会では性に合わなければお互いに会わないですませることもできるのに、ネットワークではそうも行かない場合もある。ちょっとした発言が、相手を傷つけ、あるいはそのグループの中で浮いてしまい、「村八分」状態になってしまうことだってある。

そんなことになるのだったら、WWWを見るだけにしておこうとか、発言はやめてひたすら他人の発言を聞いているROMのままでいよう、と思ってしまうかもしれない。あるいはパソコン通信やインターネットへのアクセス自体やめてしまおうと思うかもしれない。

でも、それは本当にもったいないことだ。ちょっとしたこころがまえがあれば、問題ないのだ。最低限のルールを知っていれば、どういうことがネットで起きるか予測することができるし、対処することだってできる。

そういった知恵をいままでのネットワーク社会はすでに作ってきている。気にしたほうがいいちょっとしたこころがまえが、ネチケット―ネットワークのエチケット―である。これが、共有されれば、ネットワーク社会も住みよくなるというものだ。本書はそういった知恵を集めたものの翻訳である。本書によっていままで作られてきたネット上のルール=ネチケットがどんなものであり、どういうことに注意を払い、不必要なネット上のケンカ(バトル=罵倒=flaming)をさけるにはどうするかを知ってさえいれば、たいていのことは乗り越えていけるし、ネットでの出会いを楽しいものにしてくれるだろう。

原著刊行後、ネチケットに対してもいろいろな意見が出されるようになってきた。ネチケットがネットワークの自由な部分を規制しているのではないかという批判の声も最近ではあらわれている。しかし、絶対的な自由というものはありえないし、完全なカオスの中で生きるほど人間は強くない。大きな力による極端な統制よりもできるだけ、個々人にゆだね、ゆらぎを持ちつつ、人間同士のコミュニケーションが成り立つネットワークが育っていくためにはネチケットは必要である。ネットワークがそうなってほしいとの願いを込めて、本書を訳したわけである。よりよいネチケットを共同で作っていきたいという終章のシャーの考えに私は全面的に同意する。本書が、はじめてネットワークに入る読者にもベテランの方にもお役に立てることを祈っている。

最後に、本訳書の刊行にあたって謝辞を述べておきたい。本書刊行の最大の恩人とでもいうべきは小原信利さんである。小原さんは最近ではHTML関係の訳書を多く出している人であり、技術サポート問題の専門家でもあるが、ある商業ネット上で、本書にもあるような罵倒戦争に巻き込まれ、ほとほと嫌気がさしていた時に、たまたまアメリカの書店で本書を見つけられた。それを私に教えてくれたのである。最初の訳稿を作る時にもたいへんお世話になった。小原さんといっしょに、シーボルトセミナーに出席したおり、本書の原著者であるシャーさんと発行人のセス氏、編集者のフッバードさんとサンフランシスコのグリーンというベジタリアンのレストランで食事をしたのは、素敵な思い出である。セスは私よりも若い当時30になったばかりの出版人で、私も大いに勇気づけられた。(私もネットワークに期待をかける出版人であり、シャーの言葉を借りればルネッサンスパブリッシャーでありたいと思っている一人である。)協力者の菊地敦子さんからは、さまざまな協力とアドバイスをいただいた。菊地さんは、ニフティサーブのビギナーズフォーラムで長い間ネットの新人に助言をしてきた方である。訳した際の注は、松本が☆で、菊地さんが付けてくれたものは※である。また、松島秀行さんと家辺勝文さんには最終段階で、訳文のチェックをしていただき多くの間違いを直すことができた。 また、早くから表紙の素敵な絵を描いて下さった仲世朝子さんにも感謝を述べたい。おかげで、パソコン関係の書籍としては一風違った素敵な本となった。最後に、編集の段階で助言をしてくれ、表紙のデザインをしてくれた編集の但野真理にも。もちろん、言うまでもないことだが、訳の誤り、間違いはすべて松本に責任がある。

2年間も刊行が遅れてしまったことをお詫びしたい。その間、直接存じていない方からも、メールなどで催促をいただいた。なお、本書の間違いやおかしな点について電子メールや郵便でご助言をいただければ幸いである。その際は、SUBJECT行にネチケットと入れて置いて下さるようお願いする。

松本 功


jbc03436@niftyserve.or.jp、ja4i-mtmt@asahi-net.or.jp

http://www.mmjp.or.jp/hituzi/index.html


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