概念史研究会
 
概念史研究会発足の趣旨][概念史研究会の活動] 


2019.4.16更新



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第2回概念史研究会
場所:上智大学四谷キャンパス2号館10階 1015会議室
日時:2019年3月29日(金)15:30-17:30



発表者1 :平松英人(東京大学)
タイトル:方法論としての概念史理解のために —丸山眞男・石田雄・コゼレック—

概要報告:
 日本においては日本思想史の分野で概念史的な研究がおこなわれてきた。コゼレック概念史との直接的な方法論上の影響関係について言及したものは見当たらないが、本報告では丸山眞男の思想史の方法と石田雄による「自治」に関する概念史的研究を紹介し、コゼレック概念史との接続を試みた。
 丸山おいてコゼレック概念史との関連で注目すべきは、丸山が「History of ideas諸々の観念の歴史」と名付けた思想史の方法である。そこでは言葉(いわゆるシニフィアン)と観念(いわゆるシニフィエ)との関係で一義的な対応関係を前提とせず、観念と観念との離接関係の過程や社会過程における観念の機能の変遷を追求するものとされる。さらに丸山は観念(思想)の価値を測定する基準として、重さ(徹底度)、流通範囲、幅(包括する問題の範囲)、(論理的実証的な密度)、多産性、の五つを挙げているが、観念が社会過程に及ぼす影響についての基準は明確ではない。
 次に石田雄の著作である『自治』における概念史的方法論を紹介した。石田は多面的な概念史的アプローチを提唱し、その狙いを、多様な、また時代によって変化する概念の意味を、多くの用語例を歴史的背景の中に位置づけることで、多次元的な座標の上で明らかにすることとした。さらに概念の意味変化が社会的現実の反映により規定される側面と、概念をめぐる意識の変化が社会的事実における変化を促進する側面の双方に着目する重要性を指摘している。報告者は、この後者の側面においてコゼレック概念史、とりわけ社会史における概念史的アプローチとの明らかな接続性がみられること、また、日本思想史における概念史的アプローチの伝統を検討することで、コゼレック概念史を理解し、それを歴史分析に応用していくうえでの有益な示唆が得られる可能性を指摘した。





発表者2 :鈴木広光(奈良女子大学)
タイトル:日本における概念史「的」研究 —概観と問題点—

概要報告:
 コゼレックの概念史の方法を日本(日本語)に本格的に適用した研究は今のところ見当たらない。本報告では日本で独自に行われた概念史「的」研究の成果を紹介し、その問題点を指摘するとともに、概念史を記述する上での提案を行った。まず日本で展開された概念史「的」研究の一つの達成として、J.トゥリーアの言語の「野」の理論を導入し、民話における「またうど」「かだ者」の概念フィールドの内部分節構造を明らかにすることを通して、中世から近世の日本の庶民の倫理規範(およびそれを支える時代精神)を描き出した佐竹昭広の民俗学的意味論研究を紹介した。
日本(東アジアも)における概念史の記述は、近代の西欧文明移入とそれを表す翻訳語が中心となることが予想されるが、そのためには柳父章の翻訳論を批判的に継承すべきである。彼は「カセット」効果など翻訳語(ひいては言語コミュニケーション)の性格を考える上で重要な視点を提唱してきたが、一方で問題もある。彼はrightの日本語訳「権」について、そこに西欧では鋭く対立していたrightとpowerの概念の混在を指摘する。だが、西欧の〈正義〉〈権利〉概念を歴史的に一枚岩であったかのように扱うため、西欧対日本という図式に陥りがちである。本報告では、思想家の言説と法律文書のrightを同じものとして扱って良いか、〈権利〉概念は「西欧人」にとっても自明だったのかなど、彼の方法上の問題点を指摘した。それらを踏まえて概念史の記述にあたっては、発話行為や書記行為では発信者が受信者に対してある目的意図にもとづいて表現を選択して伝えるべきことを伝えており、ここに歴史的一回性の問題も絡んでくるので、それらを考慮に入れることの必要性(と困難)について述べた。








第3回概念史研究会の予定


日時:2019年7月27日(土)14:00-17:30

場所:上智大学四谷キャンパス2号館10階 1015会議室


発表者1:陳力衛(成城大学)
題目:中国における概念史研究の展開と課題

概要:概念史研究が中国でどのように展開されてきたか、主な課題とはなにかを紹介しつつ、「文学」「教育」といった具体例をもって従来の語史研究の限界とその違いを説明し、概念史研究の可能性にも言及する。


発表者2:左古輝人(首都大学東京)
題目:思想の計量:テキストマイニングで何ができるか
概要: