学術出版の困難

20040727
20080114 updateしました。以前のものは、こちらをご覧下さい。

学術出版の困難

「学術書の刊行の仕方」予定目次をご覧下さい。 学術書の出版のあり方について、きちんと考え、発信し続けていきたいと思っています。

学術出版は「酵素」か「触媒」である。

学術専門書出版というものは、いわゆる商業出版とも自費出版とも違っています。商業出版が、読者に買ってもらってなりたつものであるとしますと、買ってもらうだけでは成立が困難です。その困難さを具体的に言いますと、たとえば、新書は800円くらいの値段で2万部を刊行しています。計算すれば、総定価で1600万円です。さらにこれらは、2・3ヶ月で売り切ることを目指しています。一方、学術書は5000円で1000部作るとします。総定価が500万円です。販売期間は2年で売り切れることを目標としますが、実際には5年であるとか10年掛かることも希ではありません。総定価が500万円でもし、3年掛かったとすると500万円割る36ヶ月となります。一月14万円弱です。どうでしょうか?

では自費出版とはどう違うのか?自費出版の場合であれば、制作費プラス編集費を全学、著者が負担することになります。総定価500万円の本の場合、書店経由で100パーセント販売できたとして500万円×.67ですので、335万円です。たぶん、46版で240ページくらいなら、200万円くらいで受注することになるのではないでしょうか。

上記のような商業出版も自費出版も考えないとしたら、教科書の売上げを投入したり、助成金をなんとか確保してそれによって回していくという補助資金を投入して本を作っていくことになると思います。

教科書の売上げを投入するという場合は、その出版社のかってということになるでしょう。助成金を持ってくるということになるとその研究がどのような公共性を持つのかということになります。

これは、説明するのがそんなに簡単ではないのではないかと思います。公共性があるということを前提にします。その上で、ここでは、研究者個人の中に公共化されるべき、研究成果があるということにします。その場合に、出版されることによってその研究成果はより公共化、共有化されると思われます。

出版によって、個人や研究機関の中にあった知識・成果は、より公共化されるはずです。もし、個人の頭の中にあった時の価値を1とすると、それは何倍にも増えるはずです。

しかしながら、書籍にして公開しようと考えたときに、そのコストは、少なくありません。前期のように考えると1冊の本を出すと言うことを考えれば、500万円程度の経済的な規模の経済活動になります。しかし、出版をなりたたせるためには、それが数年のうちに売れてくれる必要があります。そのような経済的な規模があるのか、あるのなら、問題は少ないですが、なかなか難しい場合があります。また、本にすると言うことは内容を固定化するということであり、1冊にまとめるとなるとその整合性や一貫性も必要になります。数年かけて書いた原稿の整合性というのはなかなかたいへんです。

一方、ネットに出してしまえばいいという考えもなりたつでしょう。それに対して本にする意味はあるのか?

編集が関わって、本にする。pdfよりも本の方が、読みやすく、丁寧に作られており、内容もこなれているという状態にしなければ、意味がない。編集者がそういう価値を付け加えることが出来るのか?もし、付け加えることができるなら、これは「酵素」とか「触媒」というような機能になります。そのようなものとして編集はあるのか?自問すべき問いでしょう。

たまたま、ある若手の考古学の研究者に昨日、聞いた話では、考古学の研究書が、書籍として刊行されている紙面よりも、刊行後にでまわっている論文のpdfの方が印刷すると高精細であるということである。考古学では、写真の解像度が非常に重要とのこと。これでは、書籍の意味がない。


学術出版
アメリカの学術出版協会
こちらでも発言しました。『情報処理』Vol.41 No.11
『情報処理』Vol.41 No.11(内容が読めます)
ちょっと困ったシンポジウムでした。
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